相続税における土地の評価方法| 「路線価方式」と「倍率方式」について
土地を相続するときは遺産分割の方法などにも注意が必要ですが、相続税の負担にも注意しましょう。
そして相続税の納付額を調べるには土地の評価額を調べる必要があり、決まった評価方式があることを知っておかないといけません。
ここではごく基本的な評価方法を紹介しますが、少なくとも「路線価方式」や「倍率方式」と呼ばれる評価方法については把握しておくことが望ましいです。
それぞれの計算式や土地の状況に応じた評価の方法についてもここで解説していきます。
土地の評価方法
土地の評価額を調べる方法には、①路線価方式と②倍率方式の 2種類があります。まずはこれらの評価方式での基本的な計算の仕方を理解しておきましょう。
路線価方式について
まずは路線価方式についてです。
こちらは土地に「路線価」が定められているときの評価方法で、「道路に面した標準的な宅地 1㎡あたりの価額」であると説明できます。
路線価の定められた土地かどうかは、 国税庁の Webサイト から確認できます。
上記 URLからアクセスして、画面上でまずは都道府県を選択。そして“路線価図”をクリックします。
該当するエリアの住所を追っていくと図が表示されますので、その図から各土地の路線価を探してみましょう。
例えば“ 300D”などと千円単位で表示されていますので、この表示のある土地は路線価 30万円であることが確認できます。
※アルファベットは借地権割合を表す。“D”の場合は 60%を意味する。
路線価が明らかになれば、土地の奥行の長さを調べ、さらに土地の形状、間口の広さなどに対応する補正を加えて相続税評価額を算出します。
計算式は次の通りです。
土地 1㎡あたりの評価額 = 路線価×奥行価格補正率
土地全体の評価額 = 土地 1㎡あたりの評価額×地積
※奥行価格補正率:奥行距離に対応した値。地区区分により異なり、「普通住宅地区」の場合は 0.80~ 1.00までの値が定められている。奥行距離 10m以上 24m未満であれば 1.00。
下記の国税庁 Webサイトから確認可能。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/07.htm
倍率方式について
倍率方式は、路線価が定められていない土地を評価するときの方法です。
固定資産税評価額に一定の「倍率」を乗じて相続税評価額を算出するシンプルな評価方式となっています。計算式も次のように簡単なものです。
土地の評価額 = 固定資産税評価額×倍率
このときの倍率も 国税庁の Webサイト から調べられます。
路線価を調べるとき同様に、まずは都道府県を選択しましょう。
続いて“評価倍率表”とある欄を確認し、宅地であれば“一般の土地等用”のボタンを押下します。さらに評価対象の住所を選択すると倍率表の画面が表示されます。
この画面上にある“固定資産税評価額に乗ずる倍率等”の欄から、倍率が読み取れます。
ほとんどの場合“ 1.1”が定められていますが、“ 1.2”や“ 1.3”などの倍率が定められているケースもあります。
土地を評価する流れ
土地を評価するにあたっては、まず評価対象になっている土地の資料を集める必要があります。そして集めた資料に誤りがないことを確認し、さらに忌地かどうか、傾斜や高低差などの状況も確認していく必要があります。書類だけでは判断できないこともあるため、現地に赴いての調査も必要になるでしょう。
地積も評価において重要な要素であり、課税時期での実際の面積で計算を行います。実測によって正確な計算が可能となりますが、すべての場合に必須の行為ではありません。実際の地積が明らかであるのなら、その数値を使って計算をしてもかまいません。
そして地目の判定や、どこで土地を区切るのか、この評価単位も重要な要素となります。
以上を踏まえ、土地を評価するときの全体の流れは次のように整理できます。
- 評価対象の土地を特定して次の情報を把握
- 土地の所在地
- 地目や地積
- 権利関係
- 使用状況 など
- 次の資料を集める
- 固定資産評価明細書
- 名寄帳
- 登記事項証明書
- 地積測量図・公図
- 路線価図 など
- 現地での調査を経て次の事項を確定させる
- 地積
- 地目:宅地、田畑、山林、牧場、雑種地など
- 評価単位を判定して評価明細書を作成する
路線価方式による計算例
路線価が定められた土地における具体例をいくつか挙げて計算をしてみます。
道路とどのように接しているのか、土地の状態・利便性によっても計算方法が変わってくることに留意しておきましょう。
よくある宅地(一方路線)の場合
土地が 1つの道路に面している場合、上記の計算式をそのまま使って相続税評価額を調べることができます。
例えば路線価 15万円で奥行が 10m、奥行価格補正率が 1.0、横幅 18mの普通住宅地区の土地がある場合を考えてみましょう。
「土地 1㎡あたりの評価額」は、路線価 15万円×奥行価格補正率 1.0= 15万円です。
「土地全体の評価額」は、この 15万円×地積( 10m× 18m= 180㎡)= 2,700万円と算出できます。
借地権を設定した貸宅地の場合
地主である土地所有者 Aが、借地人 Bに土地を貸している状況を考えてみましょう。
土地には借地権が設定され、この借地権に基づいて Bは当該土地上に建物を所有しています。
このときの土地は「貸宅地」と呼ばれ、本来の評価額より割引がなされます。
この割引は、土地を他人に貸していることで地主自身の権利が制限されていることに由来します。
他人に貸している土地と貸していない土地では、同じ土地でも所有権の価値が違うのです。
そこで、その土地本来の価額から「借地権の価額」を控除しなくてはなりません。
相当の地代の支払いを受けているときは自用地としての価額の 80%で計算できますので、仮に前項の一方路線における宅地を貸宅地としているのであれば「相続税評価額 2,700万円× 80%= 2,160万円」と算出できます。
複数の道路と接している土地(二方路線等)の場合
土地が道路に挟まれている、つまり 2つの道路と接している場合は、利便の向上を理由に土地の相続税評価額が一方路線に比べて高くなります。
まずは土地が接している道路 2つの路線価を調べてみましょう。これに奥行価格補正率を乗じて、高い金額の方を「正面路線」、低い金額の方を「裏面路線価」とします。そして正面路線価を基とする 1㎡あたりの価額を算出しておきます。
次に土地の評価において一定の加算をするため、他方の路線価について「二方路線影響加算額」を算出します。
二方路線影響加算額は、裏面路線価×奥行価格補正率×二方路線影響加算率の計算により求めることが可能です。
二方路線影響加算率は下記の通りです。
地区区分 | 二方路線影響加算率 |
---|---|
普通住宅地区 | 0.02 |
中小工場地区 | |
大工場地区 | |
ビル街地区 | 0.03 |
普通商業・併用住宅地区 | 0.05 |
高度商業地区 | 0.07 |
繁華街地区 |
普通住宅地区で、奥行 10m・横幅 18m、奥行価格補正率が 1.0の場合において、正面路線価 30万円、裏面路線価 20万円、二方路線影響加算率 0.02とすると次のように評価額を求めることができます。
正面路線における 1㎡あたりの評価額 = 30万円× 1.0
= 30万円(①)
二方路線影響加算額 = 20万円× 1.0× 0.02
= 0.4万円(②)
土地の評価額 = (①+②)×地積
= 30.4万円× 10m× 18m
= 5,472万円
角地の場合
「角地」は、通りの角に位置する土地のことです。格子状に家が並んだ住宅街において端にある土地は角地となります。
角地でも 2つの道路に接することになりますが、道路に挟まれた二方路線とは評価方法が若干異なります。
前項で紹介した一般的な二方路線価格では「二方路線影響加算率」を使いましたが、角地においては「側方路線影響加算率」を使います。
側方路線影響加算率は次の通りです。
地区区分 | 側方路線影響加算率 |
---|---|
普通住宅地区 | 0.03 |
中小工場地区 | |
大工場地区 | 0.02 |
ビル街地区 | 0.07 |
普通商業・併用住宅地区 | 0.08 |
高度商業地区 | 0.10 |
繁華街地区 |
あとは基本的に二方路線同様に計算を進めていきます。
普通住宅地区で、奥行 10m・横幅 18m、奥行価格補正率が 1.0の場合において、正面路線価 30万円、側方路線価 20万円、側方路線影響加算率 0.03とすると次のように評価額を求めることができます。
※ 1㎡あたりの金額が低い方の道路を「側方路線価」とする。
正面路線における 1㎡あたりの評価額 = 30万円 ×1.0
= 30万円( ①)
側方路線影響加算額 = 20万円 ×1.0×0.03
= 0.6万円( ②)
土地の評価額 = (①+②)×地積
= 30.6万円 ×10m×18m
= 5,508万円
二方路線価との違いは加算率の部分のみです。大工場地区では加算率が二方路線の場合と変わりありませんが、その他の地区区分においては加算率が大きく設定されています。そのため角地の方がより高い評価額になりやすいことがわかります。
塀・門などを評価する方法
土地上にある塀や門についても金銭に見積もることが可能であり、相続税の課税対象です。
ただしこれらは土地そのものではありませんし、同じように評価することもできません。家屋とも異なるものであり、別の評価方式が採用されます。
ポイントは「相続開始時点で再建築することになった場合にかかる費用がいくらになるのか」にあります。
これは「再建築価額」と呼ばれ、ここから償却費の合計額を控除。さらに 0.7を乗じた値が相続税評価額となります。
控除額は、当該設備の建築から課税時期に至るまでの償却費の合計額です。定率法に基づいて償却費を計算する必要があります。
なお、家屋に取り付けられた設備については別途計算をする必要はありません。
構造上、家屋と一体になっているなら、家屋の固定資産税評価額にその分がすでに含まれています。
宅地以外の雑種地等を評価する方法
土地は家屋を建築して使用する「宅地」のほか、いくつかの種類があります。
この区分は地目とも呼ばれ、「田」や「畑」などの農地や「山林」、そして定義された地目以外の土地、例えば駐車場や運動場、ゴルフ場などは「雑種地」と呼ばれます。
それぞれ評価方法が異なるため、地目にも着目して計算を行うようにしましょう。
- 農地の評価方法
・・・農地の分類によってさらに評価方法が分かれる。「倍率方式」や「宅地比準方式(宅地として計算した値を基に評価をする方式)」など。 - 山林の評価方法
・・・純山林なら「倍率方式」、中間山林・市街地山林については「倍率方式」または「比準方式」で評価する。 - 雑種地の評価方法
・・・状態の似た付近の土地を基に計算する「近傍地比準方式」を使うのが原則。
ここで解説したように土地 1つでも評価方式はたくさんあり、どんなときにどの方式を採用すべきかで悩むこともあるでしょう。
選択すべき評価方式がわかっても、正確な計算をするのは簡単な作業ではありません。
少しの計算ミスが相続税納付額全体に大きな影響を与えるおそれもあります。本来の納付額より大きくなってしまうこともあれば、過少申告になってしまってペナルティを課される危険性もあります。そのため相続財産に土地が含まれているときは税理士に相談することが推奨されます。