不動産相続において固定資産税は誰が納付するのか
不動産相続に伴う固定資産税の納付義務は、原則として1月1日時点の所有者に課されます。
しかし、相続発生後の実際の負担者や納付方法については、相続の進行状況や遺産分割の結果によって変化する可能性があります。
固定資産税課税の基本的な仕組み
固定資産税は、土地や建物などの不動産に対して課される地方税の一種です。
※課税対象は居住用不動産だけでなく事業用資産や投資用不動産も含まれる。
具体的には、市町村が固定資産の評価額を3年ごとに見直し、その評価額に基づいて課税標準額が算出されます。そして、この課税標準額に税率(標準税率は1.4%)を乗じて税額が決定されます。納税通知書は例年4月から5月頃に送付され、納税者は年4回に分けて納付するのが一般的です。
特例措置もいくつか用意されており、一定条件を満たして固定資産税の負担が軽減できることもあります。
※固定資産税に関する特例措置 |
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・住宅用地の課税標準額を、200㎡以下の部分に対して1/6に、200㎡を超える部分に対しては1/3にできる特例がある。 ・2026年3月31日までに新築した住宅について、一定面積分まで税額を1/2にできる特例がある。 |
相続後は誰が固定資産税を負担するのか
相続発生後の固定資産税の負担者は、相続の時期や遺産分割の状況によって変化します。
ここでは原則的な取り扱いと実務上の対応について詳しく見ていきましょう。
原則は1月1日の所有者が納税義務者
固定資産税の納税義務者は、原則として「1月1日時点の所有者」となっている方です。
そこで、もし相続が1月2日以降に発生したとすれば、その年における納税義務は被相続人へと帰属するのが基本です。とはいえ被相続人がすでに亡くなっていますので本人が税金を納めることができませんし、相続によって被相続人の権利義務は自動的に相続人へと移転しますので、税金の納付義務についても相続開始に伴い自動的に移転する仕組みになっています。
法定相続分に応じた連帯納付義務が課される
遺産分割が完了するまでの期間、不動産を含み相続財産は相続人全員の共有財産となります。
この共有状態においては各相続人が法定相続分に応じた連帯納付義務を負いますので、たとえば相続人が被相続人の妻と長男・長女である場合だとそれぞれの負担割合は1/2と1/4ずつとなるのです。
ただし実務上はその全員各々が納めるのではなく、「相続人の代表者を指定する届出」を市区町村役場所定の窓口で行うようにしましょう。自治体によって様式や手続きの詳細には違いがありますが、こういった仕組みを活用して相続人間で行う納税などを管理する代表者を定めておいた方がスムーズにいきます。
代表者になったとしても、後々遺産分割時に調整したり償還の請求をしたりして余計に納めた分をほかの相続人から回収すれば、負担を平等にできるでしょう。
遺産分割完了後は新たな所有者が納税義務者
遺産分割協議が成立、あるいは遺言書の記載に従い不動産の所有者が確定すると、それ以降は所有者が固定資産税の納付義務を負います。
ただし、相続人間で定めた所有権も登記を行わなければ公に示すことができず、固定資産税の納税の通知も適切な人物に届くとは限りません。
2025年9月に遺産分割協議が成立したとしましょう。この場合、2025年度分の固定資産税については、依然として相続人全員による共有状態が継続しているとみなされます。そこで新たな所有者が単独で納税義務を負うのは2026年度分からとなるのです。
このタイムラグは、固定資産税の課税システムが1月1日時点の所有者を基準としていることに起因します。
このタイムラグの影響を大きくしないためにも、所有者が定まってからは速やかに相続登記を行うようにしましょう。
登記が遅れると所有者変更が反映されるのも遅れ、納税通知書の送付先に混乱が生じる可能性があります。
そもそも相続登記自体法律上の義務ですし、不動産を取得した方は早めに登記所で申請を行うようにしてください。
なお、相続したのが賃貸物件であるときの賃料についても似たような問題が起こり得ます。
賃料債権が発生したタイミングに応じてその取得者が異なり、①相続発生前の未納分は相続財産に組み入れられ、②相続開始後~遺産分割完了前なら法定相続分に応じて相続人に帰属、③遺産分割完了後なら賃貸物件を取得した者に帰属します。
固定資産税の納付義務と違うのは、1月1日時点の形式上の所有者に義務が課せられるという点です。
未納の固定資産税は相続財産の債務
被相続人が納付すべき固定資産税に未納分がある場合、これは一般的な債務同様の形で相続財産へと組み込まれます。
つまりその債務を相続人が承継することになり、結果的に相続開始後に納付義務が生じる場合と変わらず負担を負うこととなります。
ただし未納となっていた場合には延滞税が発生している点に注意しましょう。
延滞金に注意
固定資産税の納付が遅れていた場合、延滞金が発生しています。
この延滞金の支払い義務は、直接未納をしていた者ではなくても相続人へ引き継がれ、本来の納付額より大きな負担を負うこととなってしまいます。
そして相続の手続きが原因で支払い義務の存在や納付手続きが遅れるとさらに延滞金が膨れ上がってしまうため、気が付いた時点ですぐに対処しましょう。
相続税の計算上は債務控除ができる
未納の固定資産税は債務として承継するため、相続税の計算上は「債務控除」の対象となります。
つまり相続税の課税価格を減額する効果をもたらし、その分相続税額を軽減することになるでしょう。
ただし、債務控除の適用を受けるためには未納額を証明する資料の提出が必要です。納付通知書など、自治体が発行する証明書は大事に保管しておきましょう。
それを相続税の申告時に添付します。
なお、債務控除額の算定は相続開始時点の未納額を基準とします。この際、被相続人が遅延していたことに由来する延滞金も含めて算定することができますが、相続人の対応が遅れて生じた延滞金に関しては債務控除の対象にはなりませんので注意してください。
※相続税申告のほか「準確定申告」にも注意 |
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被相続人が不動産賃貸業を運営していた場合などには、亡くなった年における所得税の確定申告を相続人が行わなければならない。これを「準確定申告」と呼び、相続開始から4ヶ月ほどの期限に係る。 事業で取り扱っていた不動産に関する固定資産税については一般的に経費計上が認められるが、準確定申告においては死亡時期や納付通知書の届く時期などによって取り扱いが異なるため、税理士に要相談のうえ対処すべき。 |
相続放棄をすると納付義務はなくなる
「相続放棄」とは、相続人が被相続人の権利義務を一切引き継がないことを選択できる法的手段を指します。
被相続人が多額の借金を抱えていた場合が典型例ですが、その他さまざまな理由で相続放棄を検討することがあるでしょう。
そして相続放棄をした場合、土地や建物を相続することも亡くなり、それに附随する固定資産税の支払い義務についても一切引き継ぐ必要がなくなります。
ただし「特定の財産だけ放棄することはできない」という点には注意しましょう。
部分的な相続放棄は認められず、固定資産税の負担だけ回避するといった使い方はできません。
※「限定承認」の手続きを行えば、相続財産を残しつつ、相続財産以上の負債の負担を回避することは可能。ただし清算処理をしないといけないなど手間が大きい。
滞納分の負担も不要
相続放棄をした場合、未納により生前に発生していた固定資産税の支払い義務や延滞税の支払い義務についても負うことはなくなります。
これは、相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されると、初めから相続人ではなかった人として扱われるためです。
次順位の相続人に負担が回る
共同相続人がいる状況下で相続放棄をした場合、放棄をしていないほかの相続人にいるならその方に権利義務が割合多く引き継がれます。
また、相続放棄によって同順位の相続人がいなくなることで次順位の者が相続人になるケースがあることには留意してください。
相続では、被相続人の「直系卑属(子どもや孫などのこと)」「直系尊属(親や祖父母などのこと)」「兄弟姉妹」という順で優先的に相続権を獲得するのですが、もし直系卑属がすべて相続放棄をすると、次点で直系尊属が相続人となります。
そのことの気が付かないまま時間が経過してしまうとトラブルになるおそれがありますので、相続放棄をしたという事実を共有しておいた方が良いでしょう。
なお、もしすべての人物が相続放棄をすると相続財産は最終的に国庫へと帰属します。
不動産相続で注意すべき税金はほかにもある
不動産の相続に関連する税金は固定資産税だけではありません。次の3つの税金については知っておくと良いでしょう。
- 登録免許税:相続登記でかかる
- 不動産取得税:不動産の遺贈でかかる
- 譲渡所得税:不動産の売却でかかる
登録免許税は、登記や登録、そのほか特許や免許などの手続きを行う際課税される税金です。税額を求める基本的な算式は[不動産の評価額(固定資産課税台帳に登録された価格)×税率(2%)] ですが、相続登記においては「0.4%」で良いとする軽減措置が設けられています。
不動産取得税は売買などの取引で土地や建物を取得したときに課される税金で、[不動産の評価額(固定資産課税台帳に登録された価格)×税率(4%)]の算式により求めるのが基本です。相続は取引ではありませんので原則として非課税なのですが、取得原因が遺贈(遺言書を使った譲与)であって受贈者が相続人以外だと課税される仕組みになっています。
※包括遺贈の場合における受遺者は相続人同等に扱われるため不動産取得税の課税もない。
※住宅用土地の場合は税率3%。
※特定の要件を満たす場合、宅地の評価額を1/2にして良いとする特例措置もある。
そして譲渡所得税は、不動産を売却したときに得た利益に対してかかる所得税のことです。相続で取得した物件を売却したときも譲渡所得税の計算が必要となるため注意しましょう。
このときの譲渡所得は[譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額]の算式により求め、ここに税率15%または30%を乗じて税額を算出します。
※税率は所有期間に応じて定まり、被相続人が保有していた期間も含めて5年を超えると15%が適用できる。
※相続した物件が一定要件を満たす空き家であれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除しても良いとする特例もある。
相続に伴い、固定資産税やほかにもさまざまな税金、債権債務の問題が発生します。
複雑な計算や特例措置の適用についても考えていく必要がありますし、税理士に相談して不備なく相続手続きを進められるように備えましょう。