事業承継税制とは| 制度の仕組みや手続内容、メリット・デメリットなど詳しく解説
事業承継税制は会社や個人事業を引き継ぐ方の税負担を軽くするための制度です。
贈与税や相続税の負担は事業承継を妨げる要因でもあるため、その問題を解決するために同制度が設けられています。
事業承継を考えている経営者の方、将来引き継ぎをすることになる後継者の方はぜひチェックしておきたい制度ですので、当記事で概要を押さえておきましょう。
事業承継税制の基礎知識
親族内でする事業承継、社内でする事業承継、 M&Aにより社外の者とする事業承継など、さまざまな引き継ぎ方があります。
そして多くの場合自社株式を後継者へと引き継ぐ形で事業承継は行われるのですが、無償で譲与したとしても贈与税あるいは相続税の課税を受けますし、有償での譲渡となれば対価分の負担が後継者にかかってしまいます。
多額の贈与税や相続税が発生することもあり、潤沢な資金がないケースだと事業承継が円滑に進められません。
そして中小企業が活発に活動できないとなれば地域経済にも悪影響が及びます。
そこで創設されたのが「事業承継税制」です。 2009年度の税制改正により新たに作られた仕組みで、条件を満たせば自社株式(または個人事業における事業用財産)の取得にかかる贈与税や相続税に関して“納税猶予”をしてもらえます。
贈与税の負担の大きさ
事業承継税制の恩恵は、税金の大きさを計算してみるとわかりやすいです。
まず贈与税についてですが、基本的な算式は次の通りです。
贈与税額 = (贈与財産-基礎控除 110万円)×税率
超過累進課税制度が採用されており、一定額を超えた部分に対してより大きな税率が適用されるようにできています。
速算表を使って税率と控除を適用すればすぐに計算できます。
基礎控除後の課税価格 | 200万円 | 400万円 | 600万円 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
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税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
引用: 国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率 (暦年課税)
速算表(子や孫などへの贈与時に適用される特例税率)
もし自社株式の評価額が合計で 3,110万円だとすれば、 1,085万円もの税金を納めないといけません。
贈与税額 = ( 3,110万円- 110万円)× 45%- 265万円
= 1,085万円
※一般税率が適用される場合、 200万円近く税額が増える。
相続税の負担の大きさ
相続税は贈与税より計算が複雑です。単純に遺産へ税率を適用することはできませんが、「 1,000万円以下に対して税率 10%」「 3,000万円以下に対して税率 15%」「 5,000万円以下に対して税率 20%」と贈与税に比べて税率は低く設定されています。また基礎控除額も 3,000万円~とかなり高額です。
そのため贈与税よりは負担が抑えやすいといえるでしょう。
とはいえ数百万円もの税額が発生することはありますし、最大の 55%もの税率が適用される場面では納税額が億単位にも上ります。
納税猶予の仕組み
事業承継税制の適用が受けられる場合、後継者は、贈与税や相続税の最大 100%について納税が猶予されます。
さらに、要件を満たした状態で一定期間経過すれば、猶予されていた税額について免除を受けることもできるのです。
要件や猶予割合については①一般措置と②特例措置で違いがあります。
| 猶予割合 | 対象株式 | |
---|---|---|---|
①一般措置 | 贈与税 100% | 相続税 80% | 全株式 |
②特例措置 | 贈与税 100% | 相続税 100% | 最大 2/3 |
特例措置では贈与税・相続税ともに猶予割合が 100%とされ一般措置より効果が大きいですが、条件として期限内に特例承継計画を提出すること、贈与・相続を実行することが求められます。
令和 6年度税制改正で提出期限が 2年延長
一般措置は恒常的な措置で、利用するにあたり期限を気にする必要はありません。
一方の特例措置は時限的な措置ですので利用するなら早めに取り組む必要があります。
留意すべき期限は 2つです。適用を受けるための要件とされている「特例承継計画」の提出期限と、贈与・相続を実行する期限です。
提出期限に関しては「 2024年 3月 31日まで」と定められていたのですが、令和 6年度税制改正により 2年間延長されることが決定しました。
ただし実行期限については延長されていませんので、 2027年 12月 31日までに引き継ぎを済ませられるよう取り組みましょう。
参照: 令和6年度税制改正の大綱
特例承継計画の提出 | 2026年 3月 31日まで |
---|---|
贈与・相続の実行 | 2027年 12月 31日まで |
納税猶予・免除をしてもらうための手続
事業承継税制を使って税金の納税猶予・免除をしてもらうには、時間をかけて手続に取り組む必要があります。
自社株式の贈与を行う場合
経営者が生きているうちに後継者へ自社株式を贈与するなら次の流れに沿って手続を行うことになります。
- (特例措置を利用する場合)特例承認計画を都道府県庁へ提出する
※申請期限は贈与が発生した年の翌年 1月 15日まで - 審査を受ける
- 問題なければ認定書を受け取れる
- 認定書の写しを贈与税の申告書に添付して税務署に提出する
- 「猶予される税額+利子税の額」に見合う担保を提供する
ここから納税猶予期間が開始されますが、その効果を継続するには 5年間、年に 1度次の対応が必要です。
- 都道府県庁への「年次報告書」の提出
- 税務署への「継続届出書」の提出
5年経過後は継続届出書を 3年に 1度提出するだけで要件を満たせますので少し負担が軽減されます。
納税猶予の期間中に先代が亡くなると贈与税は免除となりますが、相続税の納税義務が発生する可能性もあるため、その場合は相続税の納税猶予をしてもらうための手続に取り組みましょう。
自社株式を相続する場合
相続により自社株式を承継するときも、贈与における流れとおおむね共通しています。
特例承認計画を作成して都道府県庁に提出(申請期限は相続開始から 8ヶ月目まで)。審査を経て認定書を受け取り、これを相続税の申告書とともに税務署へ提出します。納税猶予額および利子税の額に見合う担保提供も同様に必要です。
納税猶予期間中に年次報告書や継続届出書の提出が必要である点も同じです。
各当事者が満たすべき条件を要チェック
事業承継税制を使って引き継ぎをしようと考えるなら、手続に着手する前に、条件を満たせていること・条件を今後満たせることの確認を済ませておきましょう。
《 必要な条件 》
- 現経営者について
- 会社の代表であること
- 経営者親族などを含め総議決権の過半数を持っていること
- 贈与時には代表としての立場を退いていること
- 後継者について
- 贈与・相続により、後継者とその親族などを含め総議決権の過半数を持つこと
- 議決権数がもっとも多くなること
※後継者 2,3人の場合は、総議決権数の 1割以上を持つこと。 - (贈与の場合) 18歳以上で、 3年以上の役員経験を持つこと
- (相続の場合)役員であって、相続開始から 5ヶ月を経過する日までに代表者になること
- 会社について
- 中小企業者であること
※業種別に、資本金の額と従業員数で判定する。 - 従業員数が 1人以上いること
- 上場企業ではないこと
- 風俗営業会社や資産管理会社ではないこと
- 中小企業者であること
また、申請をしてからも後継者が猶予対象になっている株式を保有していることが必要です。
事業承継税制のメリット・デメリット
事業承継税制を利用することのメリットを理解すること、また良い側面だけでなくデメリットについてもきちんと認識したうえで取り組むことが大事です。
以下にメリット・デメリットを整理します。
メリット | |
---|---|
相続税や贈与税の負担を軽減できる | 事業承継税制を利用することの一番のメリット。 本来、自社株式の課税価格に対応して算出される税金を納めないといけない。経営権をすべて株式とともに移して本格的に引き継ぎをしたいと考えていても、「税金の負担が重すぎて実行に移せない」と円滑に事業承継が進まないことがあるが、この問題の解決が図れる。 |
後継者同士の争いを回避しやすい | 特例措置であれば、引き継ぎ対象の後継者を 1人に絞る必要がなく、 2人・ 3人に承継することも認められる。 |
デメリット | |
長期間拘束される | 猶予期間が長く、免除決定を受けるまでに数年以上かかる。納税の負担がなくなる確証がなかなか得られないことにプレッシャーを感じる可能性もある。 |
手続の手間が大きい | 都道府県庁や税務署に提出しないといけない書類があり、いったん申請に通った後も継続的に報告等を行わないといけない。 特例措置を使うとなれば特例承継計画の策定にも手間がかかる。 |
納税猶予取消のリスクがある | いったん納税が猶予されてからも、その後一定の事由(下記)に該当したときは納税猶予が取り消されてしまう。この場合、猶予されていた税額に利子税も加算されてしまう。 |
時間や手間がかかるものと認識のうえ、同制度を利用しましょう。専門家にも協力してもらいつつ対応していけばその負担も抑えられます。
ただ、取り消し事由には注意してください。例えば次のようなケースに該当するとそれまでの苦労も意味をなさなくなってしまいます。
- 後継者が退任した
※介護を要することになったなど、やむを得ない理由による場合は除く。 - 後継者の同族関係者が、後継者より多くの議決権数を持った
- 同族の持つ議決権数が過半数に満たなくなった
- 対象の株式が譲渡された など
個人版事業承継税制について
事業承継税制が使えるのは株式会社だけではありません。個人事業を営む方も適用を受けられます。
個人事業の場合は株式ではなく「特定事業用資産」と呼ばれる事業用の財産になります。
同制度の適用を受けられる特定事業用資産に該当するには次の条件を満たす必要があります。
- 青色申告書の貸借対照表に計上されている
- 次の資産のいずれかに該当する
- 土地面積 400㎡までの宅地
- 床面積 800㎡までの建物
- ①②以外の減価償却資産であって、固定資産税・自動車税等の対象になる、その他一定のもの。
基本的な仕組み、メリット・デメリットは法人版と同じです。贈与税や相続税の納税猶予が受けられ、その後一定要件をクリアすることで免除が受けられるという内容になっています。なお、上記条件からわかるように同制度の適用を受けるには青色申告を選択している必要があります。
白色申告により確定申告をしていた個人事業主だと同特例が利用できません。
詳細については事業承継や税に詳しい専門家へご相談ください。