小規模宅地等の特例|確認しておくべき要件を土地の種類別に解説
土地は相続税の課税対象です。そして遺産の中でも比較的価格の大きな財産であり、土地があると納めるべき相続税の額も大きくなる傾向にあります。
そこで相続開始後、土地を受け取った方に検討していただきたいのが「小規模宅地等の特例」の利用です。
相続税の計算をする過程では、財産の評価を行うことになるのですが、この特例を使えば大幅に減額できる場合があります。
ただし特例を適用させるためにはいくつかの要件を満たさなければなりません。
ここで基本的な要件を紹介していきますので、相続開始後の対応、事前の相続対策に役立てていただければと思います。
小規模宅地等の特例とは
「小規模宅地等の特例」とは、宅地の評価額を大幅に下げることを認める特例のことをいいます。
参照:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」
宅地の種類や面積など所定の要件を満たした上で、最大80%も減額をすることができる、節税効果のとても大きな特例となっています。
というのも土地の相続に関してはこういった特例が利用できないと、土地を取得した方が相続税を納めるために結局これを手放さざるを得ないケースもあるのです。
相続財産に現金や預貯金などがあまり含まれておらず、唯一の資産として土地が残っていたとしましょう。
これを取得した方が相続税の納税を求められても、現金などが相続で取得できないと、自身の蓄えから納負担をしないといけなくなります。
突然大金を納めなさいと言われても対応できないことがあります。取得した土地を今現在住まいとして使っている場合、これを手放すとなれば死活問題です。
生活基盤を守り、こうした問題を防ぐため、厳しく要件を課した上で大きな減額を認めているのです。
小規模宅地等の特例のメリット
同特例のメリットは何と言っても減額割合の高さです。他にも様々な各種控除や特例が設けられていますが、それらと比べても大きな効果が得られると言えるでしょう。「〇〇万円」と金額で指定されるのではなく、「○○%」と割合で指定されていますので、価額の大きな土地であるほど効果が高まるのも特徴的です。
被相続人が住んでいた住宅用の土地であれば、面積330㎡に対して減額割合80%を適用することができます。事業用の宅地なら400㎡に対して80%が適用可能です。
また、80%にまでは及ばないものの、貸付をしている一定の宅地に関しては200㎡を限度に50%を減額させられます。
この特例を適用させることなく相続税の計算をしてしまうと、納税額も大幅に変わってくることが想定されます。そのため、本当に適用できるかどうかは税理士にチェックしてもらう必要がありますが、遺産に土地が含まれているときはまず「特例が使えないかな?」と考えるようにしてみましょう。
特例を適用するための要件の概要
この特例を適用するには、取得した土地が制度上定義された以下いずれかの土地に該当する必要があります。
まずはこの3種類の土地について、説明していきます。
特定居住用宅地等とは
「特定居住用宅地等」とは、住宅として使っていた土地のことです。
要は、“亡くなった方が生活をするための家を建てるのに使っていた土地”などのことです。
亡くなるまで継続して常にその土地の上で生活をしていた、ということまでは求められません。
そのため相続直前に介護のため施設で生活をしていたとしても、賃貸に出していたなどの事情がなければ適用を認めてもらうことができるでしょう。
また、“生計を共にしていた親族が住んでいた土地”に関しても同様に、特定居住用宅地等として認めてもらえることがあります。
亡くなった方が直接住んでいたわけではないものの、その故人が生活費などの仕送りをしており、生計を一にしていた親族が自宅として使っていた土地であれば、同特例を適用する余地があります。
これらの宅地等に関しては、減額割合80%を、330㎡を限度に適用させられます。
仮に当該土地の面積がぴったり330㎡で、評価額1,000万円であったとすると、80%を減額して評価額200万円にすることができるのです。
なお、330㎡を超えた部分に関しては一切の減額がありません。
特定事業用宅地等とは
「特定事業用宅地等」とは、事業のために使われていた土地のことです。
“亡くなった方が事業のために使っていた”、あるいは“亡くなった方と生計を共にしていた方が事業のために使っていた”という場合でも該当します。
この事業用の土地を減額する場合も減額率は80%。そして400㎡までの面積に対して適用させることができます。
貸付事業用宅地等とは
「貸付事業用宅地等」とは、他人に貸している土地のことです。
ただし“事業用”とあるように、無償で単に家族に土地を提供していただけではこれに該当しません。
“第三者に当該土地を貸して賃料を得ていた”、あるいは“土地の上に賃貸マンションを建ててその建物を賃貸に出していた”といった方法で活用をしている必要があります。
なお、上の2種の宅地同様、亡くなった方と生計を共にする親族が貸付業に使用していた土地も、同特例の対象になります。
なお、貸付に使っていた場合に関しては、減額できるのは50%までです。限度面積も200㎡までと、上記2つの土地に比べると効果は小さく設定されています。
とはいえ200㎡まで評価額の半分になるだけでも大きな節税効果に繋がります。
小規模宅地等の特例で減額するための要件
土地の区分ごとに、減額をするための要件を整理していきます。
減額の要件 | |
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特定居住用宅地等 | ・同居している親族が、相続で取得した土地に住み続ける ・生計を共にする親族が、相続で取得した土地に住み続ける ・被相続人あるいは生計を一にする親族が住んでいた土地を、配偶者が相続で取得する ※“被相続人と同居していた親族”だと相続後その土地に住み続ける場合に限り適用可能だが、“被相続人の配偶者”だとその土地で住んでいなくても適用可能 |
・“被相続人と同居していなかった親族”でも、自己所有の家がないなどの要件を満たして特例を適用できることがある(家なき子特例) | |
・複数の土地を相続する場合でも適用可能 ・それぞれの土地が要件を満たしているなら、適用させる土地を選ぶことができる 例:250㎡の土地と200㎡の土地がある場合、250㎡の土地に特例を適用させても限度面積の330㎡に満たないため、他方の土地につき80㎡まで特例を適用させられる | |
特定事業用宅地等 | ・相続開始の3年より前から当該土地で事業を始めていること ・相続人が、相続税の申告期限まで事業を続けるとともに土地を持ち続けること ※「相続開始前3年以内」とする規制は、平成31年の法改正により設けられた。ただし土地上の減価償却資産の額が土地価額の15%以上の場合は特例が適用できる |
“被相続人のする事業のために使われていた土地”については、その事業を相続税申告期限までに引き継いでおく必要がある | |
貸付事業用宅地等 | ・相続開始の3年より前からその土地を賃貸に出していること ・相続人が、相続税の申告期限まで貸付事業を続けるとともに土地を持ち続けること |
“被相続人のする貸付のために使われていた土地”については、その貸付事業を相続税申告期限までに引き継いでおく必要がある |
親と同居していない場合に満たすべき要件(家なき子特例)
上でも少し触れましたが、被相続人と同居していなかった親族であっても、所定の要件を満たして特例が適用できるケースがあります。
これを特に「家なき子特例」と呼びます。
通常は被相続人と一緒に暮らしていた方を対象に同特例は認められるのですが、持ち家がない方に関しては例外的に適用することが認められ、80%の減額効果を得ることができます。ただし、当人が持ち家を持っていないだけでなく、次の要件も満たさなければなりません。
- 被相続人に配偶者や同居の親族がいない
- 相続開始前3年以内に、配偶者の持ち家や3親等以内の親族の持ち家などに住んだこともない
- 当該土地を相続税の申告期限まで保有する
- 相続開始時点において居住している家につき所有していたという過去がない
なお、家なき子特例が利用できるのは特定居住用宅地等に限られます。事業用あるいは貸付用の土地に関しては対象外です。
小規模宅地等の特例の要件を満たせない土地の例
「別荘」や「相続時精算課税制度で贈与された土地」、「青空駐車場」に関しては、小規模宅地等の特例を適用できませんので注意しましょう。
- 「別荘」について
そもそもこの特例は相続人の生活基盤を守ることにありますので、事業用や貸付用として収益に関わるものでもない、別荘については基本的に適用させることができません。
ただ、別荘であってもその物件を賃貸に出して賃料も受け取っていた場合、貸付事業用宅地等として特例を適用する余地はあります。 - 「相続時精算課税制度で贈与された土地」について
相続時精算課税制度は、贈与時の税負担を軽減し、相続時に精算をするという制度です。
相続時に精算は行うものの、土地の取得自体は相続前に行われています。同特例は、相続や遺贈に伴って取得した土地を適用対象としていますので、相続時精算課税制度を使って贈与された土地に対して適用させることはできません。 - 「青空駐車場」について
青空駐車場とは、構築物のない駐車場のことです。止め石が置かれているだけ、ロープを張っただけの駐車場などがこれに該当します。
駐車場に対して同特例を適用する場合、“構築物”が必要で、構築物かどうかに関しては実質的な判断が下されます。ポイントは事業性が認められる程度の資本の投下がなされているかどうかです。単にロープを張っただけでは難しいですが、費用をかけて土地全体を整備している場合など、駐車場業として営んでいることが明確な場合には特例を適用する余地があります。
小規模宅地等の特例の適用については、簡単に判断できないケースも多いです。
そのため居住用や事業用、貸付用などの種別問わず、土地の相続や遺贈があったときには税理士に一度相談をしてみると良いでしょう。