現金に相続税はいくらかかる? 相続財産としての現金の特徴や計算方法を紹介
現金、預貯金、土地、建物、株式、国債、貴金属、債務など、被相続人の持っていた財産には基本的に相続税が課税されます。現金でもその他の財産でも同じルールが適用され、その種類に応じて計算式や税率が変わるわけではありません。
ただ、結果的に相続税の額に影響することはありますし、納税や遺産分割、取り扱い方法など実務的な側面でも違いがあります。
ここでは特に「現金を相続するとき」に焦点を当てて、現金の特徴について解説をしています。
現金を相続するときの特徴
不動産や動産など、現金以外の形で財産を相続するときと比べ、現金の相続には「納税額が大きくなりやすい」という特徴があります。他にも現金ならではの特徴、良し悪しがありますのでまずはそれらを説明していきます。
納税額が大きくなりやすい
相続税に関してもっとも知っておきたいことが「現金の場合は額面そのままで課税されるため、相続税の負担が大きくなりやすい」ということです。
「他の財産の方が節税に向けた工夫が取りやすく、現金の場合だと節税が難しい」といった表現の方が的確かもしれません。
現金を相続すると不利な扱いを受けるということではありません。相続税を計算するときの評価額についてこれを減額するための措置が取れないため、相対的には負担が大きいという意味です。
例えば1億円を現金で相続するときと、1億円を使って取得された不動産を相続するときとでは、相続税の負担に大きな差が生まれます。まず、不動産の場合は取得した時点で価値が下がり、1億円の財産を相続することにはなりません。その上で、特例を使った評価減などをする余地もあり、結果的に納税額に大幅な差が生まれやすいのです。
納税資金には困りにくい
相続税に関する問題の1つに「納税資金の不足」が挙げられます。
相続した財産の価額を超えて相続税が課されることはありません。これは相続税に限らず、贈与税や所得税などでも同じです。取得した利益以上の税がかかってしまうと、誰も財産を取得しようとはしません。
そのため相続税の負担がかかるときでも、全体として相続人の財産はマイナスにならないはずです。
ただ、納税は現金でするのが原則です。そうすると現金以外の“モノ”として財産を取得した場合には、相続人はもともと自分で持っていた現金からその負担を負わなければなりません。
非常に評価額の大きな不動産のみを相続して、1,000万円の相続税の支払い義務が生じたとしましょう。現金・預貯金に1,000万円以上の余裕がない相続人は、納税の負担に耐えられません。相続財産や自らの財産を売却するなどして対応しないといけません。
一方で現金を相続した相続人は、その現金をそのまま納めることができます。どれだけ割合大きな相続税が課されたとしても、取得した財産以上の納税額は発生しませんので、現金のみの相続であれば必ず納税ができます。
取得したことの記録が残らない
現金については、財産を移転した事実が記録として残りにくいです。現金を相続人の口座に振り込めばもちろん取得した価額も含めて記録できますが、手渡しで受け取ると誰がいくら受け取ったのか第三者は認識できません。
これ自体問題ではありませんが、「多少相続財産を少なく見積もってもバレないだろう」と考える方も出てくるかもしれません。
容易に隠せる状況にあったとしても、きちんと相続税の計算に含めて申告・納税をしないといけません。法律で定められた、全国民に課された重要な義務です。もし違反行為が発覚すると、罰として「無申告加算税」や「過少申告加算税」を課されることもあります。故意で隠している場合には「重加算税」が課される可能性も十分に考えられます。本来の税額を期日までに納めなかったことに対して「延滞税」も課されます。
多大なリスクを負うこととなりますので、必ず虚偽の申告はしないようにしましょう。
遅れて発見されることもある
相続税の計算時にあえて隠そうとする意図がなかったとしても、後々現金が発見されることもあります。この場合、悪意を持って財産を隠した場合と同等に罰則が適用されるわけではありませんが、それでも申告漏れ等により相続税の負担が増してしまう可能性はゼロではありません。
また、申告期限に間に合わせて税制上のペナルティは避けられたとしても、相続人間での遺産分割の面で余計な手間が発生してしまいます。
そこで、亡くなった方の自宅や銀行等の金庫から現金、その他の財産が出てきたときに備えて遺産分割協議で「未発見の遺産が出てきた場合の対応」についても定めておきましょう。
特に現金については「タンス預金」の確認も意識的に行っておくべきです。タンス預金とは、タンスの引き出しなど、一見して見つけにくい場所に置かれた現金のことです。へそくりや緊急時の備えとしてわかりにくい場所に現金が保管されている可能性がありますので、自宅についてはくまなく調査しておくことが大切です。
公平に遺産分割しやすい
現金には相続人間での遺産分割がしやすいという利点があります。
相続人など、遺産分割の当事者数が増えてくると遺産分割の難易度は高くなってしまいますが、現金であれば1円単位で平等に分配していくことが可能です。
相続財産が不動産1件のみである場合を考えてみましょう。相続人が1人ならその方が取得するだけですが、相続人が2人以上いると遺産分割が大変な手続となります。「不動産を共有する」「1人が不動産を取得して他の相続人に代償金を支払う」「不動産を売却して得た金銭を2人で分ける」などの方法がありますが、いずれの方法にも問題点があり揉める可能性を秘めています。
現金の相続は税額が大きくなりやすい反面、トラブルなどは避けやすく、スムーズに相続手続を進められるという良さを持っているのです。
相続人にとって扱いやすい
現金の場合、遺産分割がスムーズになるだけでなく、その後も手間がかからないという良さがあります。
不動産だと自宅として使ったり賃貸物件として使ったり様々な活用方法がある一方、維持管理に手間がかかります。名義変更手続として登記申請も必要ですし、その後継続的に税金の負担も発生します。人に売却するにも費用や時間がかかり、上手く扱える人でなければ苦労するかもしれません。
しかし現金は貯金して貯えることもできますし、すぐに何かを購入する資金として使うこともできます。保有し続けることに手間はありませんし、メンテナンス不足で価値が下がることもありません。
ただし、遺産分割協議が成立するまでは勝手に処分しないよう注意が必要です。相続開始から相続分が確定するまでの間は相続人全員の共有状態となり、1人が勝手に使ってはいけません。現金に限らず、相続財産には一切手をつけないようにしましょう。
現金を相続したときの計算例
相続税はいくらほど発生するのか、計算例でイメージを掴んでおくと良いでしょう。
例1)現金4,000万円を相続人2人で相続した場合
※現金のため、特別な評価を行う必要はなく、額面そのまま4,000万円が相続税評価額となる。
課税対象の財産4,000万円に対し、基礎控除として適用可能な額が“3,000万円+600万円×法定相続人の数=4,200万円”であるため、課税遺産総額は0円。よって、相続税は0円。
例2)現金8,000万円を相続人2人(長男と長女)で3対1の割合で相続した場合
課税遺産総額 = 8,000万円-基礎控除額4,200万円
= 3,800万円
続いて、課税遺産総額を法定相続分で按分して、税率と控除を適用させる。その金額を合計して「相続税の総額」を算出する。
相続税の総額 = (法定相続分に対応した取得金額×税率-控除額)の2人分
= (1,900万円×15%-50万円)×2
= 470万円
税率や控除額についてはこちらの速算表の通り。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
その後、相続税の総額を実際の取得分に応じて按分。
長男の相続税額 = 470万円×3/4
= 352.5万円
長女の相続税額 = 470万円×1/4
= 117.5万円
※それぞれに使うことができる税額控除(未成年者控除や障害者控除、贈与税額控除など)がある場合、ここからさらに減額可能。
事前に検討しておきたい節税対策
現金が相続できると納税資金を手持ちから捻出する必要がありませんし、相続人にとっても扱いやすいという利点があります。ただし納税資金対策が十分な場合、現金の割合が大きいことにより、主に納税額の大きさの面でデメリットも大きくなってしまいます。
そこで納税額を抑えるために検討しておきたい節税対策をいくつか紹介していきます。
基礎控除を有効活用した贈与 | 受け取った財産が年間110万円以内であれば基礎控除により非課税で現金を受け取れる。金額は限られるが、これによって相続財産を減らし、相続税の課税も少なくすることができる。 ただし生前贈与加算のルールによって相続開始前の一定期間については贈与財産も相続税の計算に含まれてしまうことに注意。 |
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相続時精算課税による贈与 | 相続時精算課税による課税方法へと切り替える手続をすれば、相続開始まで特別控除2,500万円が使えるようになり、まとまって現金を渡しても贈与税の負担が避けられる。 ただしその分相続開始時点で精算されるため、一概に節税効果が得られるとはいえず、綿密な計算・計画のもと贈与を行う必要がある。 |
孫に生前贈与をしておく | 相続人になるのは、一次的には配偶者と子どもであり、祖父・祖母の財産が孫に渡るまでには①祖父・祖母に関する相続、②父・母に関する相続、の2回にわたり相続税の課税機会が訪れる。 しかし孫に贈与をすれば課税機会を減らすことができ、全体としては大きな節税効果が得られやすい。 ただしこの場合も生前贈与加算が行われること、そしてこのとき孫など一定の人物については2割加算で相続税が課税されることに注意が必要。 |
特定の目的でのみ利用できる非課税特例を活用する | 次のように贈与税には一定額まで非課税にできる特例が用意されているためこれを活用する手がある。ただし利用できる場面が限られていること、手続の手間がかかることなどに注意が必要。 ・住宅の取得を支援する目的で子どもや孫に贈与をするとき、最大1,000万円まで非課税で資金を送れる。 ・結婚資金や子育てを支援する目的で子どもや孫に贈与をするとき、最大1,000万円まで非課税で資金を送れる。 ・教育資金を支援する目的で子どもや孫に贈与をするとき、最大1,500万円まで非課税で資金を送れる。 |
なお、多額の現金を贈与するときは家族間・親族間で揉めないよう、事前によく話し合ってから実行することが大切です。