相続税の延納と物納|メリット・デメリットや要件を詳しく解説
相続税を納めるのが難しいとき、まずは相続税評価額を見直したり、特例や各種控除の適用について見なおしたりして納付額が下げられないか工夫してみましょう。それでも対応しきれないときは「延納」または「物納」の制度活用を検討します。
ただし延納や物納は自由に選択できるものではなく、一定の要件を満たす場合にしか利用ができません。では具体的にどのような要件をクリアしないといけないのでしょうか。
当記事ではまずそれぞれの制度のメリットやデメリットについて紹介し、そのうえで利用にあたって大事なポイントとなる要件について詳しく説明していきます。
相続税における「延納」制度の特徴
相続税に限らず、税金は一挙に納めるのが原則です。しかし税額が大きく、まとまった金銭が用意できないときもあるかと思います。そんなときに「延納」の制度が役に立ちます。
メリット
延納制度の最大のメリットは、「税金の納付を分割で行える」という点にあり、一時的な資金負担を軽減することができます。
不動産が相続財産の大部分を占める場合、最長20年までの分割納付が認められ、計画的な納税が可能となります。
また、延納中の利子税率は一般的な金融機関からの借入金利と比べると低くなることが多く、資金繰りの面で有利となるケースがあります。
さらに、延納期間中に相続財産の売却や運用による収入を得ることができますので、納税資金の調達を柔軟に行うこともできます。
デメリット
延納には担保の提供が必要となるケースが多く、その手続きや管理に手間とコストがかかってしまいます。
また、延納期間中は利子税が課されるため長期間の延納では利子税の総額が大きくなる可能性がありますし、延納が許可された後も滞納や担保価値の著しい下落などがあると延納許可が取り消されるおそれもあります。
さらに、延納中の担保財産については、処分や担保権の設定などに制限が生じるため、資産の活用が制限されてしまうというデメリットもあります。
相続税における「物納」制度の特徴
延納のほか、例外的な納付方法に「物納」があります。その名のとおり財産をそのまま提供し、これをもって税金の納付と認めてもらうための制度です。
メリット
物納制度の最大のメリットは、「現金を用意する必要がなく、相続した財産そのものを納付に充てることができる」点にあります。
特に、不動産や有価証券などの財産が大部分を占める場合に有効な制度です。
また、相続財産を相続人自身で売却、換価する必要がありませんし、延納とは異なり利子税が発生しないため長期的な金銭的負担を考える必要がありません。
デメリット
物納の申請手続きは複雑で、多くの書類準備が必要となり、また審査に時間がかかることも多いです。この点がデメリットといえます。
物納できる財産にも制限があり、国が管理・換価しやすい財産である必要があるため、すべての相続財産を物納に充てられるわけではありません。
また、物納が許可されるまでの間は延滞税が発生する可能性がありますので、申請から許可までの期間が長期化することで予期せぬ負担が生じる危険性もあります。
延納を認めてもらうための要件
延納制度を活用するには、次の要件を満たさないといけません。
- 納付しないといけない相続税が10万円を超えている
- 金銭で納めるのを困難とする事由がある
- 金銭で納めるのが困難な範囲内での延納
- 相続税の申告期限までに書類を提出する
納付できるだけの現金があるにもかかわらず延納を選択することはできませんし、例外的な措置であるため別途申請などの手続きも必要となります。これら各要件について詳細を見ていきましょう。
相続税が10万円を超えている
延納申請を行うためにはまず納付すべき税額を計算し、算出された税額が「10万円を超えていること」を満たさないといけません。
これが基本的な要件です。10万円以下に収まる程度の金額であれば延納によらず対処しなければなりません。
※このときの金額は、加算税や利子税、延滞税の額を含まない本税の金額で判断される。
金銭で納めるのを困難とする事由がある
延納の申請にあたっては、納期限(または納付すべき日)までに金銭で一時に納付するのが困難である事情が必要です。
この困難性の判断は、相続財産の状況や申請者自身が所有している財産の状況、収入や支出の状況、さらには近い将来(おおむね1年以内)における臨時的な収入や支出の状況なども踏まえて総合的に判断されます。
その判断のためにも、申請者は「金銭納付を困難とする理由書」を作成し、その理由の裏付けとなる説明資料も併せて提出することで具体的な事情を説明しなければなりません。
金銭で納めるのが困難な範囲内での延納
延納が認められる金額は、「納付が困難と認められる金額」を限度として設定されます。
申請者は延納申請税額を算定する際に、納期限までに納付可能な金額を控除し、実際に延納が必要な金額を明確にしなければなりません。
※この計算にあたっては、相続した現金・預貯金の状況、生活費や事業経費、さらには将来の収入見込みなども考慮する。
相続税の申告期限までに書類を提出する
延納の申請は、“相続開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内(相続税の申告期限と同じ日)”までに行う必要があります。
申請には「延納申請書」など各種書類を揃えて提出しなければなりません。
《 延納申請で用意する書類例 》
- 「延納申請書」
- 「金銭納付を困難とする理由書」とその説明資料
- 「延納申請書別紙」
- 「不動産等の財産の明細書」
※特定の場合にのみ必要。 - 「担保提供関係書類」
※担保提供関係書類の提出期限については、最長6ヶ月まで延長可能。
期限後申告や修正申告、更正または決定による納付すべき相続税額についても、それぞれの期限が提出期限となります。
延納で担保の提供が必要となるケース
原則として、延納申請では延納税額に相当する担保の提供が必要です。
ただし、「延納税額が100万円以下」で、かつ「延納期間が3年以下」である場合は、担保の提供は不要とされています。
担保を提供するものは、担保として適した以下の種別に該当しなければなりません。
- 国債・地方債
- 社債・その他の有価証券で税務署長等が確実と認めるもの
- 土地
- 建物、立木、登記・登録された船舶、飛行機、自動車、建設機械等で保険に付したもの
- 各種財団
- 税務署長が確実と認めた保証人の保証 など
そのうえで、処分が容易であって価額の変動が少ないものが望ましいとされています。
※担保の見積価額は、国債なら原則として券面金額、土地なら地価の8割以内、建物や立木などは時価の7割以内などとされている。
また、担保財産は相続等により取得した財産に限らず、相続人等の固有の財産や第三者の持つ財産であっても、国税を徴収できる金銭的価値を持つものならば認められます。
ただし、法令にて担保権の設定や処分が禁止されているものであったり、共同相続人間で取得について争っているものであったりすると提供することができません。
延納が認められる期間の長さ
延納期間および利子税の割合については、相続財産に占める不動産等(建物・土地のほか、立木や不動産上の権利、事業用の減価償却資産などが含まれる。)の割合が関わってきます。
また、どの財産に係る延納税額かによっても次のように期間が変わってきます。
- 不動産等の割合「75%以上」の場合・・・
- 動産等に対応した税額:10年(年5.4%)
- 不動産等に対応した税額:20年(年3.6%)
- 森林計画立木に対応した税額:20年(年1.2%)
- 不動産等の割合「50%以上75%未満」の場合・・・
- 動産等に対応した税額:10年(年5.4%)
- 不動産等に対応した税額:15年(年3.6%)
- 森林計画立木に対応した税額:20年(年1.2%)
- 不動産等の割合「50%未満」の場合・・・5年(年6.0%)
※立木など特定の場合には利子税の割合が異なる。
物納を認めてもらうための要件
続いて物納に関する要件を紹介します。以下4点をクリアしないとこの制度は活用できません。
- 延納によっても金銭で納めることが困難
- 金銭で納めるのが困難な範囲内での物納
- 物納適格財産がある
- 相続税の申告期限までに申請書類を提出する
各要件の詳細を見てみましょう。
延納によっても金銭で納めることが困難
物納は、金銭納付と延納が困難な場合における最終的な納付手段であると位置づけられています。
そのため物納を申請するためには、まず、延納による分割納付を検討し、それでもなお納付が困難であることを示さなくてはならないのです。
この判断にあたっては、申請者の収入状況、生活費、事業経費などの支出状況、そして将来の収支見込みなども含めて総合的に行われます。
そこで「金銭納付を困難とする理由書」を作成し、その中で延納を行っても金銭で納められないことを明らかにしないといけません。
金銭で納めるのが困難な範囲内での物納
物納が認められる範囲は、「納付が困難と認められる金額」を限度としています。
そこで申請者は、納期限までに納付可能な金額を確定させ、次に延納によって納付可能な金額を算定する必要があります。
つまり、申請可能な金額は、納付すべき相続税額から一時納付可能額と延納可能額を差し引いた残額となります。
物納申請可能な金額 = 相続税額-(納付可能額+延納可能額)
これは、可能な限り金銭での納付を優先するという原則に基づく要件といえるでしょう。
物納適格財産がある
物納に充てる財産は、相続や遺贈により取得した財産の中から一定の要件を満たすものを選定しなければなりません。
そこで「物納適格財産」とは、国が徴収した相続税の管理や換価(現金化)に支障がない財産を指します。処分が容易で、価額の変動が少なく、管理や保存に過大な費用を要しないものが望ましいでしょう。
具体的には不動産や有価証券などが該当しますが、これらの財産についても、法令で定められた一定の基準を満たす必要があります。
これらを整理すると、物納しようとする財産については以下すべての要件を満たすことが必要とまとめられます。
《 物納適格財産の条件 》
- 相続税計算の基礎になる相続財産
- 日本国内に所在する財産である
- 次の順位に従っている
- 第1順位:不動産、船舶、国債証券等
- 第2順位:非上場株式等
- 第3順位:動産
- 以下の物納不適格財産に該当しない
- 管理や処分が著しく困難な財産
- 権利関係が不明瞭な財産
- 性質上物納に適していない財産
相続税の申告期限までに書類を提出する
物納の申請は、原則として相続税の申告期限である“相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内”までに行う必要があります。
申請には「物納申請書」のほか、物納しようとする財産の明細や、その財産が物納に適していることを証明する書類など、必要な書類一式を添付して提出しなければなりません。
期限後申告や修正申告、更正または決定による納付すべき相続税額について物納を申請する場合は、それぞれの期限が提出期限です。
※特定物納(延納から物納への変更)の場合は、相続税の申告期限から10年以内であれば申請が可能。
申請は複雑な手続きを要するため、専門知識を持たない相続人が対応するとなれば大変な作業になるでしょう。また、申請をするだけでなく具体的な財産状況などのチェックを受け、要件を満たすと評価される必要もあります。税理士のアドバイスも受けながら対応し、上記要件を満たしていることを確認のうえ、申請することが重要です。
物納する財産はいくらに換算されるのか
物納する財産の価額については、原則として相続税算の基礎となった価額、つまり相続税評価額が適用されます。
また、小規模宅地等の特例など特例的な評価方法が採用された財産に関しては、減額後の価額で評価されるため注意が必要です。
個々の状況によって適用される評価方法が異なる場合もありますので、実際の適用にあたっては税理士にご相談ください。