相続税の課税対象となる名義預金|判定基準や贈与時の対策などを詳しく解説
相続税の計算や申告・納付について考えるときは「名義預金」というものについて知っておく必要があります。ある口座にある預金が名義預金だと評価されてしまうと、名義人が被相続人ではなかったとしても相続税の課税対象となってしまいます。
名義預金の存在が原因で思わぬトラブルを招くこともありますので、どのような状況下だと名義預金と評価されてしまうのか、これを防ぐにはどうすればいいのかを押さえておきましょう。
判定基準から対策のことまで、ここで詳しく解説していきます。
名義預金とは?
名義預金とは、「預金口座の名義人と当該預金の実質的な所有者が異なる場合の預金」のことを指しています。たとえば親の資金で子ども名義の口座を開設し、親がこれを管理するケースだと名義預金にあたる可能性が高いです。
名義預金の存在自体が大きな問題ではありませんが、相続の発生に伴い問題が顕在化することがあります。贈与したつもりでも、その預金が相続財産として扱われるおそれがあるためです。
名義預金の5つの判定基準
名義預金かどうかの判断は、税務署が複数の要素から総合的に検討して行います。明確な線引きがされているわけではありませんが、以下5つの要素には着目すべきです。
- 口座の資金はどこからきているか
- 贈与の成立が客観的に示せるか
- 口座を開設したのは誰か
- 資金を実際に管理・処分しているのは誰か
- 預金による利益は誰が受けるのか
各要素についてどのような基準で判定するのかを見ていきましょう。
口座の資金はどこからきているか
資金源の確認は、名義預金の判定において特に重視されるポイントです。預金の原資が被相続人から提供されていると名義預金と判断される可能性が高くなります。
具体的には以下のような点が確認されます。
- 預金された資金の出所
- 振込人名義
- 振込時期や金額の規則性
- 資金移動の経路
被相続人から直接資金が移動している場合や、被相続人の収入源から定期的に入金がある場合は要注意です。逆に、口座の名義人の活動に伴い入金が発生しているなど、被相続人とは無関係に金額の増減があるなら名義預金として否定されやすいです。
贈与の成立が客観的に示せるか
贈与契約が成立しているという事実を客観的に証明できるかどうかも、名義預金を区別する重要な基準の1つです。
この点に関しては以下の要素が影響します。
- 贈与契約書の有無
- 贈与の意思表示が明確か
- 贈与税の申告がなされているか
- 贈与の事実を裏付ける証拠書類の存在
- 贈与時期における贈与の合理性
特に贈与契約書がない場合や贈与税の申告がなされていない場合は注意が必要です。
口座を開設したのは誰か
口座開設時の状況にも目を向けましょう。口座開設の手続きを名義人が直接行ったのなら名義預金を否定する方向に傾きますが、被相続人が開設を行っており名義人が関与していないのなら名義預金である疑いを強めてしまいます。
また、口座開設の目的、開設時の状況を説明できるかどうか、といった点も重要です。
資金を実際に管理・処分しているのは誰か
「預金の実質的な管理・処分権が誰にあるか」というポイントは、名義預金の判断を大きく左右する大きな要素といえます。
そこで以下の点を見直してみましょう。
- 通帳の保管場所と管理者
- 印鑑の保管状況
- キャッシュカードの所持者
- 入出金の実質的な決定権者
- 口座からの出金パターン
- 名義人の口座利用状況
口座の管理に必要な書類やカード、情報を名義人自身が管理しているのなら名義預金とは判定されにくいです。一方で被相続人がこれらを管理しており、名義人が自由にお金を引き出したりできない状況にあるのなら名義預金と判定されてもおかしくはありません。
預金による利益は誰が受けるのか
預金から生じる利益の帰属先も重要な判断材料です。
利息の実際の受取人、預金を担保とした借入の有無とその借入金の使途、預金を原資とした投資における収益の受取人などに着目してみましょう。当該口座を運用することによる利益が被相続人に帰属しているのならやはり名義預金と判断されやすいです。
なお、以上の判定基準はあくまでも目安であり、個々の事案によって重視される基準は異なります。
名義預金と認定されやすいケース
下表にて、名義預金と認定される可能性が特に高いと思われる例をいくつか紹介します。取り上げる例に近い状況にあるのなら、相続が始まる前に是正しておくと良いでしょう。
ケース | 具体例と解説 |
---|---|
親の資金で子ども名義の口座を開設している | 母親が自身の現金3,000万円を娘名義の口座に預け入れており、さらに以下の特徴を持つ場合。 ・娘本人は口座開設時に金融機関に同行していない ・通帳とキャッシュカードは母親が保管している ・娘は口座の存在自体を知らされていない |
名義変更のみで実質的な贈与がない | 父親名義の口座から預金5,000万円を引き出し、子ども名義の口座に移したケースにおいて、さらに以下の特徴を持つ場合。 ・贈与契約書の作成はなし ・贈与税の申告もなし ・変更後も父親が通帳を保管し続けている ・利息は父親の収入として確定申告している |
名義人の生活実態と預金額に乖離がある | 妻名義の口座に毎月100万円の入金があり、さらに以下の特徴を持つ場合。 ・妻にはパート収入しかない ・入金源は夫の事業収入 ・妻は金額や入金時期を把握していない ・口座からの出金は常に夫の指示で行われている |
名義預金と判定されたときの取り扱い
名義預金と判定されるとき、その預金は被相続人の相続財産として取り扱われます。相続税の計算をするときには十分注意してください。
相続財産への算入
名義預金と判定された預金は、普通預金・定期預金・積立預金など形態を問わずその全額が被相続人の相続財産として取り扱われます。
相続財産の総額が大きく増えることとなれば適用される税率が大きくなり、税の負担割合まで大きくなってしまいます。相続税対策を練っていた場合でもプランが大きく崩れてしまう危険性があります。
また、相続開始後に発生した利息は法律上の預金債権者である名義人の所得として扱われますが、これも実質的に被相続人に帰属する所得として処理される可能性があります。
加算税等の負担
名義預金を相続財産に含めていなかったことが税務調査で判明した場合、単に相続税を追加納付するだけでなく、以下のような追加の税負担が生じる可能性があります。
- 過少申告加算税
・・・相続税の修正申告により新たに納付すべき税額の一定割合が加算される。これは申告内容の誤りに対するペナルティとして課されるもの。 - 重加算税
・・・特に悪質な行為があった場合に課される加算税。「名義預金の存在を知っていたにもかかわらず、意図的に申告から除外していた」「税務調査で名義預金がばれないよう虚偽の説明をした」「名義預金に関連する証拠書類を破棄・改ざんしていた」などの場合には過少申告加算税よりさらに大きな税率で加算税が課される。 - 延滞税
・・・納付すべきであった期日から実際の納付日までの期間に対応する税が課される。相続税の申告漏れが発覚するまでに長期間が経過している場合、延滞税の額が高額になることがある。過少申告加算税や重加算税に延滞税はかからないが、これら加算税と併せて負担が発生する。
税務調査に対応するときのポイント
名義預金に関する税務調査では、預金の実質的な所有関係を明らかにするためさまざまな角度から詳細に確認が行われます。
適切に対応していくためにも、通帳やキャッシュカード、入出金に関する証憑類、そのほか作成をしているときは贈与契約書や贈与税申告書なども大事に保管しておきましょう。
調査時に受ける質問に対して推測や憶測を交えないようにし、記憶が定かではない事柄について断定することも避けましょう。あとで証言の食い違いが起こるおそれがありますので、事前に事実関係を整理しておくと良いです。
名義預金にならないための対策
名義預金と判定されることを防ぐには、贈与の実態を明確に示せる体制を整えることが重要です。そのほかの対策についても併せて実践しておきましょう。
贈与契約を締結する
贈与は契約行為であり有効に成立するには当事者間の合意が必要です。そこで贈与者の一方的な行為に終わらないよう、受贈者と話し合って、贈与を受けることに関しての認識を持ってもらいましょう。
そのうえで「贈与する」「財産を無償でもらい受ける」ということについて明確に意思表示を行い、契約を成立させます。
このとき、贈与の方法や必要に応じて条件なども話し合い、その結果を贈与契約書としてまとめましょう。贈与契約書の作成にあたっては以下の要素を含めます。
- 贈与契約締結日
・・・実際に贈与を行った日よりあとの日付を契約日としないように留意する。事後的に作成した契約書は税務調査で疑義を持たれる可能性がある。 - 贈与者および受贈者の住所・氏名
・・・契約当事者を特定するため、氏名と住所を明記する。 - 贈与財産の詳細
・・・贈与の金額、口座番号、金融機関名などを具体的に記載。将来の贈与を含む場合はその予定も明記する。 - 贈与の方法
・・・現金での交付なのか口座振込なのか、具体的な贈与の方法を記載する。分割での贈与の場合はその計画も含めて記載する。
口座の開設・管理を名義人が主体的に行う
口座の開設から日常的な管理まで、名義人が主体的に関与することが重要です。具体的には以下のような対応が推奨されます。
- 口座開設時の対応について
- 名義人本人が金融機関に出向く。
- 本人確認書類は名義人本人が提示する。
- 口座開設の申込書は名義人本人が記入する。
- 通帳等の管理方法について
- 通帳は名義人が保管する。
- 印鑑も名義人が管理する。
- キャッシュカードは名義人のみが所持する。
- 暗証番号は名義人本人が設定して他人には教えない。
- 口座の利用実態について
- 定期的に残高や取引内容を確認する。
- 必要に応じて名義人本人が入出金を行う。
- クレジットカードの引き落とし口座として設定する。
- 公共料金の引き落とし口座として利用する。
このような実態を伴っていれば、名義人の財産であることを第三者から見ても判断できるようになります。
贈与税の申告を行う
贈与税について適切な申告を行い、名義人が贈与税を納めているという事実は、贈与財産が当該名義人のものであることを示す1つの指標となるでしょう。
ただし、この申告や納付に関しても名義だけを受贈者とし、作成作業や税の負担を贈与者が代わりに負っていたことが明らかになれば意味がありません。受贈者本人が申告書を作成(あるいは税理士に依頼)し、贈与税を納めるようにしてください。
なお、年間110万円の基礎控除があるため贈与額が少額であれば申告は不要です。
※相続時精算課税制度により贈与を行う場合にも110万円の基礎控除は使えるが、申告は必要。
以上の対策を心掛けて、継続的に適切な管理を行いましょう。口座管理については長期間にわたって適切な状態を維持することが、名義預金と判定されることを防ぐうえでの重要なポイントとなります。