相続税節税の具体的な対策とは~少しでも節税したい方へ~
相続税の負担を減らすためには、控除制度について知り、これを有効活用することが大切です。また、「生前贈与の活用」「不動産の活用」「生命保険の活用」も節税対策として有効な手段であり、状況により取るべき具体的な対策内容は変わってきます。
当記事では少しでも相続税を節税したい方に向けてさまざまな節税手段を紹介していきますので、参考にしていただければと思います。
相続税制上の控除の有効活用
相続税制上、基礎控除や配偶者控除、未成年者控除、障害者控除などさまざまな控除が用意されています。
基礎控除は常に適用を受けられる控除であり、法定相続人の数が多いほどその効果を高めることができます。そこで養子縁組を行い法定相続人の数を増やすことで課税遺産総額を小さくするという節税手段も考えられます。法定相続人となる子どもが1人増えると、課税遺産総額を算出する際の控除額が600万円増えます。
ただし、被相続人に実子がいるときは養子1人までしかこの計算に加えることができません。実子がいないときでも養子2人が上限です。この点に注意しなければいけません。
未成年者控除や障害者控除については、年齢に対応した税額控除の効果が得られます。配偶者控除も非常に大きな節税効果が得られます。そこでこれら控除の効果を計算しておき、相続人全体としての税負担が小さくなるよう、遺産分割の方法を工夫すると良いでしょう。
なお、配偶者控除に関しては二次相続への配慮も欠かせません。現在の相続で配偶者が多く財産を得ても税負担は抑えられますが、当該配偶者に関する相続が起こったとき、子どもに大きな税負担がかかるおそれがあるからです。近い将来に起こる二次相続のことも意識して遺産分割を行う必要があります。
なお、相続税に関する税額控除には、贈与税額控除や外国税額控除などもあります。ただし、これらは二重課税を避けるための仕組みであり、節税効果は期待できません。
生前贈与の有効活用
相続税法上の控除を利用することはもちろん重要ですが、相続開始前であれば「生前贈与」の検討は欠かせません。将来相続財産となり得る財産を先に移転しておくことで、相続税の課税を避けることができます。
ただしこのときは贈与税が課税されますので、贈与税における特例等を活用して生前贈与を行うことになります。
基礎控除枠内で財産を減らす
一般的に、贈与税は相続税よりも税負担が大きいです。そこで、相続財産となり得る財産を一挙贈与すれば相続財産をゼロにすることができますが、相続税の負担より大きな贈与税の負担がかかる可能性があります。
しかし、贈与税にも基礎控除の仕組みがあります。一度で大きな贈与をしてしまうと重く税負担がかかるため、基礎控除を使って小分けして財産を与えていくのです。
基礎控除額は年間110万円ですがこれは受贈者側の問題ですので、例えば5人に対して贈与をすれば、年間550万円分の相続財産が減らせることになります。特別な手続も必要なく、この金額以下であれば申告の手間もかかりません。
ただし、実際に贈与が行われたことの証拠は残しておかなければなりません。現金の手渡しだと記録が残りませんので、銀行振込を利用しましょう。
また、親が子ども名義の口座を作り、自らの管理下に置き、そこへ入金をしていくだけだと贈与と認めてもらえないおそれがあります。受贈者自身に管理権限がある口座に入金しないといけません。
孫への生前贈与
財産は、相続が起こるたびに親から子、子から孫へと順々に承継されていくのが一般的な流れです。そしてそのたびに相続税は課税されます。
しかし、子どもを飛び越えて孫に贈与を行うことで、相続税が課税される機会を1回避けることができます。贈与税の課税には十分留意する必要がありますが、長い目で見ると大きな節税効果が得られます。
また、生前贈与を行った場合でも、子どもなどの相続人に対する贈与だと相続開始前3年以内の分については相続税の計算に含められてしまいます(生前贈与加算のルール)。しかし相続人に該当しない孫であればこのルールの適用もありません。
配偶者控除を使った不動産等の贈与
結婚20年以上の夫婦である場合、「贈与税の配偶者控除」が活用できます。配偶者に対する贈与すべてに適用できるものではなく、配偶者に対する居住用不動産の贈与が適用対象です。居住用不動産を取得するための資金の贈与でも適用可能です。
最高2,000万円を課税価格から控除できるため、大きな節税効果が得られます。基礎控除の110万円に上乗せできますので、その分も合わせると2,110万円の贈与が非課税でできる計算です。
しかも、この特例を活用したときは、相続開始前3年以内の贈与であっても生前贈与加算の対象外です。
ただし、同じ夫婦間でこの特例が利用できるのは1回に限られます。
住宅取得等資金の贈与
「住宅取得等資金の贈与の特例」を活用して財産を減らすことは、贈与税対策になるとともに相続税対策にもなります。
| 満たすべき要件 |
---|---|
贈与者 | 受贈者の直系尊属(父・母・祖父母など) |
受贈者 | 贈与時点で日本国内に住所があること |
贈与を受けた年の1月1日において18歳以上 | |
贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下 | |
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、自己の居住の用に供する一定の住宅を取得・新築・増改築すること ※増改築の場合は別途要件あり | |
住宅 | 登記簿上の床面積が40㎡~240㎡ |
床面積の1/2以上が居住の用に供されている | |
築20年以下であること ※耐火建築の場合は築25年以下 ※一定の耐震性能がある場合は制限なし |
これらを満たすとき、住宅資金に関する贈与が最大1,000万円まで非課税になります。
※1,000万円の非課税が適用できるのは省エネ等住宅の場合に限られる。その他の住宅については500万円まで。
結婚・子育て資金の一括贈与
「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」を活用して財産を減らすことも、贈与税対策になるとともに相続税対策にもなります。
| 満たすべき要件 |
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贈与者 | 受贈者の直系尊属(父・母・祖父母など) |
受贈者 | 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上、50歳未満 |
贈与を受けた年の合計所得金額が1,000万円以下 | |
手続 | 資金口座の開設 ※金融機関に結婚・子育て資金非課税申告書を提出 |
結婚・子育て資金の支払いと特定口座からの払い出し ※金融機関に領収書を提出 | |
受贈者が50歳に達するまたは死亡すると契約終了 ※残高に対して贈与税が課税される |
当該特例で非課税になるのは受贈者1人あたり1,000万円までです。
※結婚に際して支払われる金銭については上限300万円。
教育資金の一括贈与
「教育資金の一括贈与の特例」を活用して財産を減らすことも、贈与税対策になるとともに相続税対策にもなります。
| 満たすべき要件 |
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贈与者 | 受贈者の直系尊属(父・母・祖父母など) |
受贈者 | 贈与を受けた年の1月1日において30歳未満 |
贈与を受けた年の合計所得金額が1,000万円以下 | |
手続 | 資金口座の開設 ※金融機関に結婚・子育て資金非課税申告書を提出 |
教育資金の支払いと特定口座からの払い出し ※金融機関に学校等から発行された領収書を提出 | |
受贈者が30歳に達するまたは死亡すると契約終了 ※残高に対して贈与税が課税される |
学費などの教育にかかる費用、生活費にかかる費用に対する支援を目的とした一括贈与について、受贈者1人当たり最大1,500万円まで非課税にできるという内容です。ただし、学校以外の習い事などに対する費用の場合は500万円までが非課税枠です。
1,500万円までの非課税枠が活用できる費用の例を以下に示します。
- 入学金、入園金
- 授業料、保育料
- 施設設備費用
- 入学試験の手数料
- 学用品費
- 給食費
- 修学旅行費 など
これに対して、次の費用については学校等以外に対する費用として500万円の非課税枠となります。
- スポーツクラブの費用
- ピアノ教室など文芸芸術に関する費用
- 通学定期代 など
生命保険の有効活用
生命保険も相続税対策としてとても有効な手段です。
生前に生命保険の契約を交わしておいて、受取人として相続人やその他保険金を受け取って欲しい人物を設定しておくのです。生命保険金は純粋な相続財産ではないものの「みなし相続財産」として相続税の課税対象になるケースがあります。ただ、非課税枠が設けられており、その枠内であれば非課税で保険金を受け取ってもらえるのです。
非課税枠は「法定相続人の数×500万円」で計算できます。法定相続人が3人いるときは、1,500万円まで保険金が非課税になります。保険料を納めることで将来の相続財産を減らすことができ、保険金として形を変えて相続人等に与えることができるという仕組みです。
なお、生命保険金に対して相続税が課税されるのは「保険料の負担者と被保険者が被相続人であるケース」です。例えば、被相続人である父が被保険者となり、保険料も負担。受取人として配偶者、あるいは子どもを設定したとき、生命保険金には基本的に相続税が課税されます。
一方、保険料負担者と受取人が同じであるときは所得税が、保険料負担者と受取人および被保険者が異なるときは贈与税が課税されます。
不動産の有効活用
生前贈与のように財産を直接減らすほか、「相続財産の評価額を下げる」ことで節税効果を高めることもできます。この観点からは、特に不動産の活用が有効といえます。また、遺産分割方法にも工夫すると良いです。
貸家の建築
大きな土地を所有している場合、相続税の負担も大きくなってきます。そこで検討する1つの手段が「貸家の建築」です。
有効活用しきれていない土地を持っている場合、そこにアパート、あるいはマンションなどの貸家を建てると、土地の評価額を下げることができます。土地面積の100%を自由に使えることができなくなるため、その分評価額を下げることができるのです。
一方で建物の価値を評価してその分に相続税は課税されますが「建築に要した費用=建物の評価額」の等式には従いません。1億円かけて建築した場合、相場としてはその6割、6,000万円程度の評価額となります。
現金をそのまま相続するより大幅な節税効果が得られます。しかも他人に賃貸をしている物件ということで、建物の評価額はさらに下がります。
小規模宅地等の特例の利用
被相続人が住まいとして使っていた自宅、あるいは店舗や事務所などがあるとき、その建物の下にある宅地は、生活基盤となる財産です。ここに重い税負担がかかってくると、生活に支障をきたすおそれがあります。
そこで「小規模宅地等の特例」が設けられています。同特例を利用することで、特定の宅地に関して一定面積までであれば評価額を最大80%下げることも可能です。
対象になる宅地は大きく2種類、①居住用宅地と②事業用宅地の2つです。
どちらも被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が使用していたことが条件となります。①の場合330㎡の面積まで80%の減額割合を適用可能です。②の場合最大400㎡に対して80%の減額、不動産貸付用宅地の場合は200㎡を限度に50%の減額が可能です。
特例が利用できる人物についても制限がありますので要注意です。相続や遺贈により当該宅地を取得した人物であって、相続税申告までは引き続き居住または事業を行っていることが必須です。
収益物件の遺産分割
賃貸マンションのように収益性のある財産については、子どもまたは所得の低い人が取得するのがおすすめといわれています。
子どもが取得すべきなのは、配偶者が収益物件を取得することで二次相続における相続財産が大きくなってしまうことに由来します。そこで賃貸不動産のみならず、株式なども将来の値上がりが予想される財産は配偶者ではなく子どもが取得することも検討しましょう。
また、収益性のある物件を高所得の人が取得すると、累進課税に基づく所得税が課税され、割合税負担が大きくなってしまいます。所得の低い人に収益物件を与えることで納税資金対策にもなりますのでこちらも遺産分割協議において検討すると良いでしょう。