遺贈でかかる相続税|遺言書を作成するときに注意すべきポイントとは
遺贈も相続も遺産を取得できることに変わりはなく、同じように相続税が課税されます。しかし遺贈ならではの注意点、特に相続人以外が遺贈を受ける場合には注意しておきたいポイントがいくつかあるためチェックをしておいてください。
遺贈の基本
「遺贈」とは、人が亡くなった後に、その人の財産を遺言によって特定の人に与えること、を意味します。
自分の死後、財産をどのように処分するかを自分の意思で決めることも認められており、その実現のために遺言書を作成します。
一方の「相続」は、法律で定められた人が自動的に亡くなった人の財産を引き継ぐこと、を意味します。配偶者や子どもなど民法で定められた相続人が、決められた割合あるいは相続人らで話し合って財産を承継します。
遺贈と相続の大きな違いは、「財産を受け取る人を自由に選べるかどうか」にあるといえるでしょう。
相続では法律で定められた相続人が財産を引き継ぎますが、遺贈では相続人以外の人や団体にも財産を与えることができます。例えば、親しい友人やお世話になった人などに財産を遺贈することが可能です。
遺贈による財産にも相続税がかかる
遺贈によって財産を受け取った場合にも相続税がかかります。
相続と遺贈は厳密には異なるものですが、相続税の課税に関しては同様に行われますので、遺言書を作成する遺言者も遺贈を受ける受遺者もご注意ください。これは、遺贈も相続も死後に行われる財産の移転という点で共通しているためです。
財産を元々持っていた方の意思に従い財産が移転するという点では「贈与」とも共通していますが、遺贈では贈与のように受け取り手との合意はありませんし、移転のタイミングが相続と同時です。贈与税が課税されるわけではありません。
例えば、Aさんが遺言書に「友人のBに現金5,000万円を遺贈する」と書いたとします。BさんはAさんの遺言に従って5,000万円を受け取ることができますが、所定の計算方法に従い相続税の負担が発生する可能性があります。もし納税資金の蓄えがないのなら、相続税納付のことを忘れて遺贈された財産をすべて使い込むべきではないでしょう。
また、遺贈されたのが土地だとすれば特に注意しなくてはなりません。現金の遺贈とは異なりその財産をそのまま納税資金として使うことができないため、売却などをしないかぎり受贈者自身の担税力で何とか対応しないといけません。
なお、遺贈が原因で相続税の負担が発生するのは被相続人の親族や友人など、立場や関係性は関係ありません。誰であっても相続税はかかります。
相続人以外への遺贈で注意したい課税のルール
相続人に対する遺贈、相続人以外に対する遺贈でも基本的には同じように課税がなされます。ただ、相続人以外が受遺者となるときは、相続人の場合とは異なる形で計算をしないといけないものもあります。以下のルールについてはご注意ください。
- 相続税の「2割加算」
- 基礎控除額の計算
- 税額控除の適用
- 小規模宅地等の特例の適用
- みなし相続財産の非課税枠
ここからそれぞれの詳細を説明していきます。
相続税の「2割加算」
受遺者が配偶者や一親等の血族でないときは、算出された税額の2割相当の金額が加算されます(このルールは「2割加算」などと呼ばれる)。
そこで被相続人の子や親以外が遺産を取得する場面では注意が必要です。想定より2割負担が増すことになりますので、計算時には忘れないようにしましょう。
基礎控除額の計算
相続税に係る基礎控除は、次の算式から金額を求められます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
この人数に受遺者は含まれません。もし法定相続人が0人の場合だと3,000万円、法定相続人が1人だと受遺者が複数人いても3,600万円までの控除となります。この基本的な計算方法については覚えておきましょう。
税額控除の適用
算出された税額から、さらに一定額を差し引くことができるケースがあります。この税額控除については、相続人への適用を前提としているものとそうでないものがありますので、ご注意ください。
相続税の計算で使える税額控除の概要と相続人以外への適用が可能かどうか、以下に整理しました。
税額控除の種類 | 相続人以外 | 概要 |
---|---|---|
未成年者控除 | × | 未成年者の教育や生活に必要な資金を確保できるようにするための配慮として、未成年者控除が設けられている。 年齢が低いほど控除額は大きくなり、18歳になるまでの年数に応じて10万円~180万円が控除されるが、法定相続人への適用を前提としている。 |
障害者控除 | × | 障害者が生活していく上では特別な支援や介護を要するため、そのための配慮として障害者控除が設けられている。 障害の程度や年齢に応じて控除額は設定されるが、法定相続人への適用を前提としている。 |
配偶者控除 | × | 被相続人の配偶者であれば法定相続分まで、あるいは1億6,000万円まで控除が可能であるが、法定相続人である配偶者以外には適用されない。 |
相次相続控除 | × | 一定期間内に被相続人が相続により取得した財産を、さらに相続した場合に控除が受けられる。これは、短期間に相続が繰り返されることで相続税の負担が重くなることを避けるための制度。 ただし法定相続人への適用を前提としている。 |
贈与税額控除 | ○ | 故人から生前に贈与を受けていた場合、その際に贈与税を支払っていることもある。しかしその贈与財産が相続税の課税対象となるケースもあるため、二重課税を避けるために贈与税額控除の仕組みが設けられている。 法定相続人以外の方が贈与を受けていた場合でも、この控除は適用できる。 |
外国税額控除 | ○ | 外国で相続税に相当する税金を支払った場合、その税額について日本の相続税から控除することができる。これは同じ財産に対して日本と外国の両方で相続税が課税されることを避けるための制度。 法定相続人以外の方であっても外国で相続税相当の税を納めているときはこの控除が適用できる。 |
未成年者控除、障害者控除、配偶者控除、相次相続控除は、いずれも相続人を対象とした控除であり、相続人以外の人が遺贈で財産を取得した場合は適用されません。
一方、贈与税額控除と外国税額控除は、相続人以外の人が遺贈で財産を取得した場合でも適用できるケースがあります。
小規模宅地等の特例の適用
土地の相続税評価額を計算する際使える制度が「小規模宅地等の特例」です。この適用を受けることができれば最大で80%も評価額を下げることができますので、土地があるときにはまずその適用について確認をしておきたいところです。
ただ、この特例は基本的に相続人を想定した制度であり、もし受遺者が被相続人の友人などであれば要件を満たさない可能性が高くなってきます。
とはいえ遺贈だと常に要件を満たさないわけでもありません。受遺者が被相続人の親族であったり、被相続人と同居をしていたりすると適用ができる可能性も出てきます。税理士にも確認してもらいつつ、土地の評価を行いましょう。
みなし相続財産の非課税枠
生命保険金、死亡退職金などは相続財産とは別ですが、相続税が課税される「みなし相続財産」に分類されます。相続人がこれらの金銭を受け取る場合、次の算式で求まる非課税枠が使えますので、取得した分にまるまる相続税がかかるわけではありません。
500万円×法定相続人の数
しかし受遺者が相続人でない場合、この非課税枠が適用されません。取得分にそのまま課税されてしまいますので、計算の際には留意しておいてください。
遺贈にあたって事前に確認しておきたいこと
遺贈を行う場合、遺言者は以下の内容について事前に確認をしておきましょう。これにより相続が始まってからのトラブルも起こりにくくなります。
受遺者の担税力
遺贈を行う際は、受遺者の担税力についてもしっかりと考慮する必要があります。
担税力とは端的に言うと「税金を支払う能力」のことで、つまり、遺贈に伴う相続税の支払いに対応できる経済力があるのかという点について確認しておくべきという意味になります。
遺贈された財産がすぐに現金化できない不動産や非上場株式などであれば、受遺者は相続税を支払うためにその財産を売却したり、借金をしたりしないといけない可能性が出てきてしまいます。場合によっては、せっかくの遺贈も放棄せざるを得なくなります。
このような事態を避けるため、遺言書を作成する前に、相続税を支払えるだけの余裕があるかどうかを確認しておきましょう。
他の相続人の生活や気持ち
遺言によって故人の財産を特定の人に与えることができますが、他の相続人の生活や気持ちにも配慮することが大切です。
遺贈であれば、遺産分割協議のように他の相続人の合意がなくても遺言者の意思によって自由に実行することができます。しかし、その結果、他の相続人が生活に困窮したり、故人・受遺者に対し不満を感じたりする可能性も考えられます。
このような状況を避けるためには、遺贈を検討する際に、他の相続人の生活状況や心情を考慮することが重要です。
具体的には、遺贈する財産の割合や内容を調整したり、他の相続人にも一定の財産を分け与えることを検討したりします。また、なぜ特定の人に遺贈するのかを他の相続人に丁寧に説明し、理解を得ておくことも有効といえるでしょう。
遺留分侵害の有無
「遺留分」への配慮も欠かせません。
遺留分とは法律で定められた一定の相続人(配偶者や子どもなど)が、最低限相続できる財産の割合のことです。
遺言によって財産のすべてを第三者に遺贈してしまうと、この遺留分を侵害してしまう可能性があります。そして遺留分を侵害された相続人は、遺贈を受けた人に対してその不足分の金銭の請求ができます(これを「遺留分侵害額請求」という)。
遺留分の侵害自体は違法ではありませんし、請求に応じて金銭を支払えば問題は解決します。しかし、遺留分を巡ってトラブルになるおそれもあり、裁判に発展する可能性もゼロではありません。
そのため、遺贈を行う際には遺留分を侵害しないよう、事前に相続人の範囲や遺留分の割合などを確認しておくことが重要です。
遺言書の適切な作成方法
遺贈を行うためには、遺言書を適正に作成することが不可欠です。そして遺言書が法的に有効であるためには、民法で定められた要件を満たしていなければなりません。
遺言書の書き方を間違えると、せっかくの遺言も無効と判断され、遺言者の想いが実現されない可能性が高まります。
そして遺言書の作成方法に加え、保管方法についても配慮してください。遺言書が紛失したり破損したりしてしまうと、結局遺贈は有効に行われません。