相続税の負担を複数人で分担するときの計算方法や注意点を解説
相続は、いつか誰もが直面する大きな問題です。遺産を受け継ぎ、その価額によっては相続税を負担することもあるでしょう。
ご自身だけでなく複数人で相続することもあり、このときは相続税についても分担することになります。その際どのような手続きが必要となるのか、そして税金の負担はどのように分担することになるのでしょうか。このような疑問を持つ方に向けて、相続税の仕組み・計算方法や手続き、各種注意点について解説していきます。
相続税の負担に関するルール
相続税は、相続や遺贈によって財産を取得した人が納付義務を負う税金です。複数の相続人がいるときは、それぞれが実際に取得した財産の価額に応じて相続税を計算し、納付することになります。
つまり、法定相続分がどうであれ、実際の遺産分割の結果として各人が取得した財産の価額が、その人の相続税計算の基礎となるのです。
厳密には法定相続分も相続税の総額に一定の影響を与えるのですが、相続人であっても一切の遺産を受け取っていないのならその方に負担すべき金額は生じません。
たとえば、配偶者と子2人が相続人となる場合、法定相続分は配偶者「1/2」、子がそれぞれ「1/4」となりますが、遺産分割協議によって配偶者が8割、子がそれぞれ1割ずつ取得することも可能です。そしてこのとき、実際の取得割合である8:1:1の比率で各自の負担割合が計算されます。
各自が負担する税額の計算方法
相続税の計算は単純ではありません。次のように段階的に計算を進めていかなくては正確な税額が算出されず、控除制度や特例の適用なども細かく反映するなら相続税法に対する深い理解が求められます。
計算手順 | 必要な作業・計算 |
|---|---|
第1段階 | 相続税の計算に含めるべき遺産や贈与財産を把握し、各財産の相続税評価額を調べる。株式や土地など、価額を調べるのに複雑な計算を要する財産もある。生前贈与した財産が課税対象となるケースもあることに留意する。 |
第2段階 | 相続税評価額の合計額から、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引く。 ※相続人が3人だとすれば、基礎控除額が4,800万円となり、相続税評価額の合計額がこの金額以下であれば基本的に相続税の負担は生じない。 |
第3段階 | 基礎控除適用後の「課税遺産総額」について、いったん法定相続分で按分し、法定相続分で取得したと仮定したときの金額に応じて税率を適用する。 ※相続人が子A・子Bで、1億円の課税遺産総額があるときは、実際の分け方にかかわらず1億円を1/2で按分。按分後が5,000万円であるため、その金額に対応する「30%」という税率を適用。 ※対応する税率については国税庁HPの速算表を用いると良い。 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm |
第4段階 | 税率適用後の各税額を合計して「相続税の総額」を算出。 |
第5段階 | 相続税の総額を、実際の取得割合に応じて各相続人に配分。 ※子A・子Bが相続人の場合、法定相続分は1/2ずつであるが、実際の取得分を1/4と3/4にすることも可能。この場合、相続税の負担もその割合に応じて配分する。 |
第6段階 | 各人の事情に応じた控除や加算を適用して最終的な納付額を算出。 |
このように複雑な計算過程を経て各々の納付額が算出されます。
ある方が同じ金額の財産を相続したケースでも、遺産全体の金額やほかの相続人の状況によって実際の負担額は変わってくるでしょう。また、各人の事情により適用される控除や特例も異なるため、最終的な納付税額は個人ごとに大きく差が出ることもあります。
個別に適用されるルールも反映させる
相続税を計算するときは、「2割加算」や「配偶者控除」など、相続人個別の属性に合わせて適用されるさまざまなルールにも注意しないといけません。
各ルールの適用があるかどうか、またその適用のされ方によって、納付額が大きく変動することもあるのです。場合によっては税額控除によって納付額がゼロとなるケースもあります。
特にチェックしておきたいのは次のルールです。
税額の2割加算 | 配偶者や一親等以外の相続人(兄弟姉妹や甥姪、知人などの第三者)が遺産を取得する場合、通常より相続税が2割増しで課税される。算出された個別の税額に対して加算をしないといけない。 |
|---|---|
贈与税額控除 | 相続開始前一定期間内に行われた贈与などに対し相続税が課税された場合、当該贈与財産について以前贈与税を納めていたのであれば、二重課税を防ぐために贈与税分を控除できる。 |
配偶者控除 | 配偶者が相続する財産については、1億6,000万円または法定相続分までの金額に対しては相続税がかからない。 |
未成年者控除 | 未成年の相続人には、成人年齢に達するまでの年数に応じて相続税が減額される。 |
障害者控除 | 障害を持つ相続人は、その障害の等級や年齢に応じて相続税の控除が認められる。 |
相次相続控除 | 被相続人が10年以内にさらに前の相続で相続税を納付していた場合、一定金額の控除を受けることができる。 |
外国税額控除 | 海外にある財産に対して現地で相続税相当の税を支払った場合、その分を日本の相続税から控除できる。 |
複数の相続人がおり、それぞれが負担すべき金額を把握するには、これら控除等のルールについても確認していかなければなりません。
各相続人には「連帯納付義務」が課される
複数の相続人がいる場合に注意したいのが「連帯納付義務」です。これは、1人の相続人が相続税を適切に納付しなかった場合、ほかの相続人も連帯してその金額について納付義務を負う仕組みのことです。
同一の被相続人から相続又は遺贈・・・により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる。
そのため「相続税の納付を分担したものの一部の方がその内容通りに支払ってくれない」という状況が起きると、別の方に負担が回ってくるおそれがあります。
連帯納付義務の限度額
3人の相続人がそれぞれ2,000万円、3,500万円、5,000万円の財産を相続したとしましょう。そのうち5,000万円を取得した方が200万円を滞納してしまったとすれば、ほかの2人はそれぞれ自分が相続した財産の価額を限度に、滞納税額200万円の納付義務を負うことになります。
ただし、他人の支払い義務を無制限に負わされるわけではありません。連帯納付義務は、「各相続人が相続によって受けた利益の価額」を限度として課されます。
そのため2,000万円を取得した方であれば2,000万円を限度に、3,500万円を取得した方であれば3,500万円を限度に納付義務を負います。きちんと納付しない方がいたとしても、相続で得た利益以上に損失を被ることにはなりません。
ペナルティ(加算税や延滞税)も連帯責任
相続税を期限内に支払わないことで、ペナルティを受けることがあります。加算税や延滞税といった税金が本来の税金に上乗せされ、対応が遅くなるほどペナルティはより重くなっていきます。
そしてこれら加算税や延滞税についても、連帯納付義務の範囲に含まれると考えられており、一部の相続人がきちんと対応しないことで別の方により重い負担が生じるケースも起こり得ます。
納税資金も考慮した遺産分割が大事
相続人全体に連帯納付義務が課されるため、遺産分割の際は各相続人の財産状況・担税力を考慮することが重要です。
たとえば不動産などの流動性の低い財産を多く取得する方がいる場合、その方が納税資金を確保できるかどうかを事前に検討しておく必要があるでしょう。
「自分には関係ない」などと自身の取得財産のことだけを考えていると、ほかの方が相続税を納めることができず、その負担を肩代わりすることになるかもしれません。
複数人をまとめた共同申告が可能
複数の相続人がいる場合、全員で共同して1つの申告書を提出することも、各人が個別に申告書を提出することも可能です。
前者の「共同申告」とする場合は、手続きが一本化され、効率的に進めることができるでしょう。計算の整合性も取りやすくなります。
なお、共同申告の際は申告書に全員の情報を記載しましょう。
代表者がまとめて納付することも可能
申告手続きだけでなく、納付手続きについても代表者がまとめて対応してもかまいません。
相続人の1人がほかの相続人の分もまとめて納付した方が効率的なケースもあるでしょう。また、その場合でも代表して納付した方に過度な負担が強いられるわけではありません。ほかの相続人に対して求償権を持つことになりますので、その後各自の負担割合に応じて精算をすれば良いのです。
「一部の方が求償になかなか応じてくれない」といったリスクも生じますが、この場合は加算税や延滞税が生じないため、連帯納付義務で余分な負担が生じる心配はありません。
複数人で協力して相続税を納めるときの注意点
複数人で相続税の手続きを円滑に進めるためには、全員の協力が欠かせません。また、一つひとつの作業や計算を正確に進めるには専門家のアドバイスも必要です。
コミュニケーションを取り情報を共有する
相続税の計算を行うには、相続財産全体の把握が必要となります。各相続人が個別に申告する場合でも、いったん課税対象となる財産全体を把握し、価額を調べていかなくてはなりません。
そのため、相続人間で相続財産の詳細や評価方法について情報を共有し、申告内容に矛盾が生じないよう注意しましょう。
財産を隠している方がいると正しい税額を計算できませんし、その行為が原因でペナルティを課される危険性もあります。さらに、一部の相続人による不適切な行動が原因で別の方に負担が生じることもあるため、コミュニケーションをとりながら全員で協力して進めていくことを意識しましょう。
代表者が納付する場合のみなし贈与
代表者がほかの方の分もまとめて納付し、長期にわたり精算を行わなかった場合、贈与税課税の問題が起こり得ます。
相当額の求償を行わないまま放置していると、実質的にその未回収分について贈与をしたものと評価されるおそれがあるためです。
この「みなし贈与」に留意し、精算の方法や時期などもあらかじめ取り決めておくようにしましょう。対応が遅くなりそうな場合は、利息の取り扱いについても定めておくことで、税務上の問題を回避しやすくなります。
専門家を活用する
相続税の計算や申告手続きは複雑で、複数の相続人がいる場合はより難易度が上がります。そこで税理士など、専門家に相談することをおすすめします。
相続税に強い税理士であればスムーズに各作業を進めることができますし、財産の評価から必要書類の収集、申告手続きまで一貫したサポートが受けられるでしょう。
相続が発生した際は早めに専門家に相談すること、そして相続人間で十分な情報共有と協議を行うことが、相続税の手続きを円滑に進める鍵となります。



