相続税の課税対象となる財産とは?具体例を挙げて紹介
相続が開始されたことにより財産を取得した方は、相続税の納付が必要になるかもしれません。ほとんどの財産は課税対象となるからです。
具体的にどのような財産が課税対処となるのか、ここで具体例を挙げて紹介していきます。
課税対象の例1:相続により取得した財産
遺贈を原因として財産を取得することもあれば、本来の相続財産ではないものの相続税の課税対象となる財産などもあります(後述)。
しかしもっとも一般的なのは相続をきっかけとする財産の取得です。そこでまずは相続により取得することになる、課税対象の財産を紹介していきます。
現金
「現金」は相続税の課税対象です。
財布に入っている貨幣などがこれに該当します。
預金とは異なります。
預金に対し“銀行に置いてあるお金”といったイメージを持っている方もいるかもしれませんが、厳密には預金はお金そのものを指すわけではありません。
“口座から現金を引き出すための権利”が相続対象となるのであり、課税対象となる財産もこの権利を指します。
そのため預金と現金は区別して考えなくてはなりません。
現金の大きさを把握する上では、「タンス預金」に注意が必要です。
タンス預金とは自宅で保管してある現金のことであり、預金ではないものの、銀行に預金として預けず自宅に置いてあることからタンス“預金”と呼ばれています。
タンス預金はどこにあるのかがわからないため、探すのに一苦労します。財布のように分かりやすい場所に保管されているとは限らず、タンスの中や冷蔵庫の中、ベッドの下など、一見してその存在が確認できない場所に置かれていることも珍しくありません。
へそくりとして残していた場合、意図的に見つけにくい場所に保管されていますので、「普通はお金をこんなところには置かないだろう」とは考えず被相続人の自宅を隅々まで捜索するようにしましょう。
なお、相続財産としての現金は、価値を下げることができず相続税の負担が大きくなりやすいという特徴を持ちます。
その反面、「名義変更の手続が不要」「公平に分けやすい」「相続税の納税にすぐに使える」といった使い勝手の良さも持ち合わせています。
預貯金
銀行などの金融機関にお金を預けると、一定の金利に従い、元本等に応じた利息が付与されます。
この利息の支払いと元本の請求ができる金融商品が「預貯金」です。
「預金」、あるいは「貯金」と呼ばれることもありますが、これらに大きな違いはありません。
そのため多くの場合はこれらをまとめて「預貯金」と呼んでいます。
相続時の預貯金に関しては凍結に注意が必要です。
相続が開始されたことを金融機関が把握すると、口座が凍結されてしまいます。そうなると当該口座からお金を引き出すのは困難となります。
公共料金の引き落としなどを設定していたとしても、支払いができなくなってしまいます。
結果、未払いの債務が発生してしまいますので、相続人やご遺族の方は早めに当該口座が利用されている取引内容の把握をしなければなりません。
口座凍結により引き落としができなかった場合、引落ができなかったことを告げる通知が届くと思われます。
このとき、相続人やご遺族の方でも支払いに応じるべきではありません。
あくまでその義務は故人にあったのであり、代わりにこれに対応してしまうと、相続を承認したことになってしまいます。
もともと相続するつもりであったのなら大きな問題とはならないでしょう。しかし莫大な借金を抱えていた場合には相続放棄を検討するかと思われます。
にもかかわらず承認をしたことになってしまうと、借金も負担しないとけなくなってしまうのです。
未払いの料金への支払だけでなく、その他すべての相続財産は勝手に手をつけないように気を付けましょう。
有価証券
「有価証券」も相続税の課税対象となる財産です。
有価証券とは、財産的権利を示す証券の総称であり、当該証券により権利が発生し、権利の移転や行使もできるものといわれています。
具体例は「受取手形」「小切手」といった貨幣証券、「上場株式」や「非上場株式」、そして「社債」などです。
従来は紙ベースのものが多かったのですが、昨今はネット証券等も普及し、必ずしも紙として残っているわけではありません。
そこで現金などに比べてその存在を確認する作業が大変になります。
有価証券の調査をするには、まず、どの金融機関と取引があったのかを調べなくてはなりません。
金融機関から届いた何らかの通知書、取引報告書、キャッシュカード、メールなどがないか、チェックしていきます。
開示手数料がかかりますが、証券保管振替機構に対し開示請求をすればどこに口座を作っているのかを調べられます。
ただこの場合でも財産の価額まで把握できるわけではありません。取引のあった金融機関の確定後、当該機関に対し問い合わせて内容を確認する必要があります。
なお、その価値が明らかでない有価証券に関しては、評価を行う必要があります。
非上場株式など、相続税の計算上どれほどの価値になるのかがわからないものがあるなら、税理士等の専門家に相談するようにしましょう。
土地
土地も相続税の課税対象となる財産です。
自宅と一体になっている土地、その他何らかの建物の敷地として利用している「宅地」がその代表例です。他の相続財産に比べて価値が大きいケースが多いため、納めるべき相続税の大きさを左右する一番の要因となります。
なお、土地には宅地以外にも様々な種類があります。例えば次のような地目です。
- 田(農耕地で、用水を用いて耕作する土地)
- 畑(農耕地で、用水を用いず耕作する土地)
- 山林(耕作の方法によらず竹木を生育する土地)
- 牧場(家畜を放牧する土地) など
「雑種地」も忘れてはいけません。地目として分類されていないその他のすべてがこの雑種地に含まれます。
例えば「駐車場」や「私道」「空地」などは雑種地です。
建物
「建物」も土地に次いで価値の大きな財産です。
民法上は、「土地の上に定着した物」かつ「建物として使用できるもの」が建物といわれています。
生活のために利用する「居宅」のほか、「店舗」や「事務所」「共同住宅」「作業場」「工場」などもすべて課税対象となる建物に該当します。
なお共同受託とはつまりマンションやアパートなどのことであり、賃貸物件のことを指します。
この場合、居宅などと同じようには評価できません。人に貸しているため、その分価値は小さく評価することができます。
貸付金
預貯金と同じように、人に貸しているお金がある場合、これを取り戻す権利を被相続人が有していたことになります。
そこでこの貸付金も相続の対象となり、同時に相続税の課税対象となります。
厳密には「貸付金債権」となります。この債権を取得した方は、借主に対して請求し、貸付金を回収することができます。
その回収できる分を相続税の計算に含めます。このときの計算には、元本だけでなく利息分も含めます。
なお、貸付金に関しては借主との間でトラブルが起こりやすいため要注意です。
借主が「お金は借りていない」「すでに返済した」と主張されるケースもありますし、どこに借主がいるのかがわからないというケースもあります。
借主に返済能力が一切ないなど、貸付金債権が機能しない場合には評価額0円として認めてもらえることもあります。
一般動産
上に挙げた財産以外も広く相続財産となり、相続税の課税対象となります。
例えば被相続人の自宅にある家具や家電、衣服、生活用品などのすべてです。これらは「一般動産」と呼ばれます。
一般動産の多くは相続税の計算上大きな価額で評価されません。しかし中には、自動車や宝石、腕時計、貴金属など高価なものもあります。
そのため意図せず脱税をしてしまわないよう、被相続人が所有していたものをしっかりと洗い出すようにしましょう。
課税対象の例2:遺贈により取得した財産
相続により遺産を取得できるのは、相続人に限られます。被相続人の配偶者や子、孫、親、兄弟姉妹などです。
しかし被相続人が遺言書を作成していた場合、親族関係にない、相続人以外の第三者にも遺産を渡すことは可能です。
こうして遺言書により遺産を渡す行為を「遺贈」と呼びます。
そして遺贈の対象となった財産も相続税の課税対象です。上に挙げた現金や不動産、有価証券などはすべて遺贈であっても同じく課税されます。
しかも、特定の相続人以外が財産を受け取った場合の相続税は2割加算されてしまいます。
例えば被相続人の兄弟姉妹や甥っ子、姪っ子などは2割加算のルールに従うこととなります。
課税対象の例3:みなし相続財産等
相続財産とは、被相続人がもともと所有していた財産であって、相続をきっかけに承継されることとなる財産を指します。
しかし相続税のルール上、課税対象はこの純粋な相続財産に限定されません。
“実質的には純粋な相続財産と同様の経済的効果がある”と評価される財産に関しては課税されてしまいます。
「生命保険金」や「死亡退職金」などはその代表例であり、「みなし相続財産」と呼ばれます。
他にも「生命保険契約に関する権利」や「定期金に関する権利」もみなし相続財産に含まれます。
前者は、“被相続人以外が契約者であって、被相続人が保険料を負担し、未だ保険事故が生じていないもの”を意味します。
後者は、“個人年金保険など定期的に支給されるもの”を意味します。
いずれも被相続人が生前に自由に処分できる財産ではありませんが、課税対象となりますので注意しましょう。
さらに、みなし相続財産でなくとも、次のものに関しては税制上課税されることが定められていますので、覚えておきましょう。
- 被相続人から生前に贈与を受けて、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地、非上場会社の株式や事業用資産など
- 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額
- 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額
- 相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から財産の贈与を受けている場合
- 被相続人から、生前、相続時精算課税の適用を受けて取得した贈与財産
- 相続人がいなかった場合に、民法の定めによって相続財産法人から与えられた財産
- 特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額で確定したもの
生命保険金・死亡退職金
みなし相続財産の1つである「生命保険金」とは、“生命保険契約に基づき、被相続人の死亡をきかっけに受け取れるようになる保険金”のことを指します。
同様にみなし相続財産に含められる「死亡退職金」とは、“被相続人に対して支給されるはずであった退職金等であって、被相続人が亡くなってから3年以内に支給が確定するもの”を指します。
これらは課税対象になりますが、そのすべてに対して課税されるわけではありません。非課税枠が設けられているからです。
どちらも500万円に法定相続人の数を乗じた金額までなら非課税となります。
例えば法定相続人として配偶者と子、合わせて2人がいる場合、500万円×2の1,000万円までは課税されることなく取得することができるのです。
他の課税対象とされている財産に関しても独自の評価方法があったり控除制度があったり、特例により評価額を下げたりできることもあります。
相続税の仕組みは複雑ですし、わからないこと、不安があるときは税理士に相談して解決していきましょう。