相続税が支払えないときの対処法~延納と物納、その他納税資金対策について解説~
相続したものがすべて現金や預金、その他即座に換金できるものであれば相続税の納付に困ることもないと思われます。一方で相続したものが土地や建物などなかなか換金できないものだと納税資金が不足して「相続税が支払えない」という事態に陥る可能性も出てきます。
そんなときどうすればいいのか、延納や物納、その他の対処法についてもここで解説していますのでぜひ参考にしてください。
相続税の支払いに関する原則
相続税を支払うべき期限やその支払い方については法律で定められています。まずはその原則に従い税金を納められるように取り組みましょう。
原則的な相続税の支払い方法や負担について | |
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支払い時期 | 相続が開始されたことを自分が認識した日の翌日から起算して10ヶ月目の日まで |
支払い方法 | ・金銭納付 ・納付手続は「e-Taxを使った電子納税」「インターネット上の支払いサイトを介したクレジットカード納付」「税務署や金融機関での窓口納付」などがある |
相続税の大きさ | ・基本的には基礎控除額(3,000万円~)を超える部分に対して課税 ・税率は10%~55% |
納付義務を果たさないときのペナルティ | ・法定の支払い時期に間に合わないことに対しては延滞税がかかる(未払いの金額と遅れた日数に対応して増える) ・無申告、過少申告、財産の隠匿などがあるときは加算税がかかる(未払いの金額と行為態様に対応して税率が決まる) |
上表に示した通り、支払い義務が果たせないときはペナルティが課されてしまいさらに負担が増してしまいます。そのため支払いが難しいときでも以下で紹介する対策に取り組むようにしましょう。
支払いが難しい場合の対処法
相続税の支払いが難しいときは、各種財産の評価額を見直したり、特例等の適用を見直したりしてみましょう。
土地などの財産について減額要素を見逃していることもあるかもしれませんし、適用可能な特例があり評価額や税額を下げられることもあるかもしれません。税理士の力も借りて細かくチェックしていくことで最終的な税額を下げられる可能性もありますので、一度計算結果を見直してみましょう。
納付額も確定しており、そのままだと全額の納付ができないという場合には「延納」の制度の利用も考えます。
本来は金銭で一挙に納付するのが原則ではあるものの、期日までの納付が困難な事由があるなど一定要件を満たせば年払いとすることも認められています。この仕組みを延納と呼びます。
もし、延納でも金銭で納付するのが難しいときは「物納」の制度の利用を考えます。
物納に対応した特定の財産が納付できることなど、一定要件を満たせば金銭に代えて相続税を納付することができます。
減額に向けた具体策について
ご自身で相続税の計算をしたというケースでは計算ミスが含まれている可能性も踏まえ、税理士に相談することをおすすめします。税理士に事情を伝えて、改めて正確な計算や特例・控除等の適用関係を見直しましょう。
評価額の見直し
現金や預金は残高をそのまま相続税評価額として使い、相続税の計算を行うことができます。
一方、不動産や自動車、有価証券などは一定の方法に従って相続税評価額を導き出さなければなりません。
特に土地や株式は相続税評価額を算定するのが難しく、複雑な計算を行う必要があります。インターネット上で調べると多くの情報がヒットするかと思いますが、そこでわかるのは基本的な算式のみであって、具体的な金額を出すにはご自身が取得した財産個別の状態などと照らし合わせないといけません。
財産の状態をよく調べて工夫して計算を行うことで、相続税評価額が下がることもありますので、このときの対応はプロに任せましょう。
特例や控除の適用
相続税の計算で使える特例や控除にもいろいろあります。適用の有無で相続税の負担が大きく変わることもありますので、税制についてよく調べ、適用できるものが残っていないかどうかを確認していきましょう。
例えば「小規模宅地等の特例」を適用できれば、土地の相続税評価額を最大80%も減額することができます。
ほかにも納税を猶予したり免除したりする制度もありますので、この点に関しても税理士に相談して一つひとつ確認していくようにしましょう。
延納制度について
納めないといけない額が確定し、それでも「期日までの支払いができそうにない」という場合は延納の申請を行い、支払時期を猶予してもらうことも検討してみましょう。
利用条件
延納を認めてもらうためには、少なくとも以下の条件は満たさないといけません。
《 延納の利用条件 》
- 納付しないといけない相続税額が10万円超であること
- 「金銭での納付が困難」な事由があること
- 延納を求める金額が、「金銭での納付が困難」とする金額の範囲内であること
- 相続税の申告期限までに延納許可を求める手続きを行うこと
- 申請書や担保提供関係書類を作成・提出する。
- 延納を求める金額に相当する担保の提供を行うこと
- 「延納を求める金額が100万円以下」かつ「延納期間が3年以下」であるなら担保は不要。
なお、延納可能な期間に関しては、相続財産のうち不動産等※がどの程度の割合(相続税の計算の基礎となる価額で判定)を占めているのかによって異なります。
※建物、土地、立木、不動産上の権利、事業用の減価償却資産、特定同族会社の株式および出資のこと。
もし、不動産等の割合が全体の75%以上を占めているのなら「最大20年間」の延納期間(動産等に係る税額は10年間)。割合が50%以上75%未満なら、不動産に係る税額は「15年間」・動産等に係る税額は「10年間」という延納期間になります。
不動産等の割合が50%未満なら最大でも延納期間は「5年間」です。
利子税の負担がかかることに注意
延納が認められると一定期間金銭の負担から免れることができるという利益が得られますが、その反動で延納税額に利子税が課されます。
そのため延滞の申請を行うときは「利子税分の負担がかかって総支払額は大きくなる」ということに留意しておいてください。利子税の年割合も不動産等の割合によって異なり、おおよそ5.0%前後で設定されています。
なお、「延納特例基準割合※」が7.3%に満たない場合は、次の算式で計算される割合が適用されます。
年割合の利子税×(延納特例基準割合 / 7.3%)
※延納特例基準割合:分納期間の開始日が属する年の利子税特例基準割合に年0.5%を加算した割合のこと。
物納制度について
延納での対応では不十分で、金銭での納付が難しいというケースには物納の申請も検討します。以下で説明する利用条件を満たすこと、そして物納に適応した財産を持っている方であれば物納により納税義務を履行できるかもしれません。
利用条件
物納を認めてもらうためには、少なくとも以下の条件は満たさないといけません。
《 物納の利用条件 》
- 延納をしても、「金銭での納付が困難」な事由があること
- 物納を求める金額が、「金銭での納付が困難」とする金額の範囲内であること
- 物納適格財産であること
- 「物納しようとする財産が所定の種類の財産に該当」かつ「所定の順位に則していること」が必要。
- 相続税の申告期限までに物納許可を求める手続きを行うこと
- 申請書や物納手続き関係書類を作成・提出する。
なお、財産を国が収納するときは、原則として課税価格の計算の基礎となった価額が収納価額として採用されます。小規模宅地等の特例を適用した土地を物納する場合には、特例が適用されたあとの価額で収納されてしまいますのでご注意ください。
物納できる財産
上で示したように、あらゆる財産が物納に適応できるわけではありません。下表に掲げる財産であって、国内にあるもの、そして順位の高いものから優先的に物納に充てていく必要があります。
物納の順位 | 物納適格財産の種類 |
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第1順位(①) | 土地、建物、上場株式、国債証券、地方債証券など |
第1順位(②) | 不動産および上場株式のうち「物納劣後財産」に該当するもの ※物納劣後財産とは、地上権、地役権などが設定されている土地、法令上の規定に反して建築された建物、納税義務者が現に自宅として使っている不動産、配偶者居住権の目的になっている建物、工場や浴場など維持管理の負担が大きいものなどが該当する。物納劣後財産は①がない場合に限り物納が可能。 |
第2順位(③) | 非上場株式 |
第2順位(④) | 非上場株式であって、「物納劣後財産」に該当するもの ※例えば、事業を休止している(一時的な休止は除く)会社の株式など。 |
第3順位 | 動産 |
一方で、以下の財産に関しては物納をするには不適格と評価されます。
- 担保権が設定されている不動産
- 権利の帰属先に関して争っている際中の不動産
- 境界が不明瞭な土地
- 耐用年数が過ぎている建物(ただし通常の使用ができるものは除く)
- 管理や処分にかかる費用が非常に大きい不動産
- 譲渡制限がかけられている株式
- 担保権の目的となっている株式
- 権利の帰属先に関して争っている際中の株式 など
相続開始前からの対策が大事
延納や物納などの制度を利用することで、原則どおりの支払いができなくても違法となることはありません。しかし税金の負担がなくなるわけではありませんし、むしろ利子税が課されるなどして全体としての負担が増してしまうこともあります。
そこで、可能なら相続が始まる前から対策を講じておくことが推奨されます。早めに相続税対策に取り組むことで節税効果を高めることができますし、納税資金対策も進めることができます。
例えば被相続人を被保険者として生命保険に加入していれば、[500万円×法定相続人の数]までは非課税で受取人が保険金を受け取ることができます。節税効果を高めつつ納税資金を蓄えることができますので、相続税の支払いに不安がある場合にはおすすめできる対策といえるでしょう。
ほかにも各人の状況に応じた相続税対策がありますので、税理士に相談するなどして備えておきましょう。