相続税の税額控除は何種類ある?それぞれの特徴も併せて解説
相続が開始されて遺産を取得した方などには、相続税が課税されることがあります。そして相続税が課税される場合、亡くなった方の夫や妻、子どもなど各人につき計算を行う必要があります。なおそれぞれが取得した遺産の価額に応じて納税の必要性や納税額は各自で異なります。
また、各人の状況に応じて適用を受けることができる「税額控除」にも違いがあるため、同じ割合で遺産を取得したとしても相続人間で納税額が均一になるとは限りません。
この税額控除は各人の税負担を軽減するため・過剰な税負担を回避するために重要な役割を担っており、相続税の計算において考慮することを忘れないようにしなくてはなりません。
そこで当記事では相続税における税額控除にフォーカスし、どんな種類があり、それぞれどのような特徴を持つのか、詳しく解説していきます。
相続税の税額控除は6種類ある
まず整理しておきたいのは“税額”控除の意味です。控除にもいろんなタイプがあり、計算の大元となる課税価格を小さくする作用を持つ控除もあれば、算出された納税額から一定の負担を軽減するよう作用する控除などもあります。
例えば前者には「基礎控除」があります。こちらのタイプは控除額そのままの金額で納税額が少なくできるわけではありません。控除後の課税価格に対して税率を乗じ、按分していくなどの調整が加えられていきますので、基礎控除額が3,600万円だとしても3,600万円まるまる納税額が減るものではありません。
これに対し、後者が税額控除にあたります。こちらは控除額がそのまま納税義務者の経済的負担の軽減に繋がります。税額控除100万円なら、100万円まるまる納税しなくてもよくなるのです。
そしてこの「税額控除」についてですが、相続税においては6種類が設けられています。簡単に一覧でまとめた表がこちらです。
相続税における税額控除の種類 | ||
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未成年者控除 | 利用者 | 18歳未満の相続人 |
控除額 | 10万円×(18歳-本人の年齢) | |
障害者控除 | 利用者 | 85歳未満の障害者 |
控除額 | 10万円※×(85歳-本人の年齢) ※特別障害者の場合は20万円 | |
贈与税額控除 | 利用者 | 過去に贈与税を納めた人 |
控除額 | 生前贈与加算の対象になった贈与財産について、すでに納めた贈与税の額 | |
相次相続控除 | 利用者 | 一次相続から10年以内に二次相続が起こったときの相続人 |
控除額 | 一次相続の相続税額から1年につき10%を逓減した金額 | |
外国税額控除 | 利用者 | 相続税相当の税金を外国で納めた方 |
控除額 | 外国ですでに納めた相続税相当の税額 | |
配偶者の税額軽減 | 利用者 | 被相続人の配偶者 |
控除額 | 遺産1億6,000万円もしくは法定相続分相当額に対応する相続税の額 |
以下で各税額控除の詳細を説明していきます。
未成年者控除について
相続税に関する税額控除の1つに「未成年者控除」があります。
これは相続人が未成年である場合に適用を受けることができ、成人になるまでの年数が長いほど大きな節税効果が得られる仕組みになっています。
なお、納税すべき相続税が発生しないときでも特定の控除や特例を利用したときは申告が必要になるケースがあります。未成年者控除に関しては、その適用を受けて納税額が0円になるのであれば、申告書を作成してこれを提出するなどの必要はありません。
ただし、納税が必要になるときは申告書の作成・提出も義務となります。そして未成年者控除の恩恵を受けるためには「未成年者控除額の計算書(第6表)」を作成し、算出された控除額を「相続税の申告書(第1表)」に転記する必要があります。
利用者の要件
相続税が課税されるのは相続人に限られません。ある方が亡くなったことをきっかけに財産を取得した場合には、相続人以外の方も注意する必要があります。
例えば遺言内容に従い遺産を受け取った方は「受遺者」として相続税の課税対象となりますし、生命保険金などみなし相続財産と呼ばれる金銭を受け取った方も課税対象になります。
ただ、未成年者控除が利用できるのは相続人に限られます。相続人以外の受遺者、例えば被相続人の妻と長男が相続人である場面において孫に遺贈をしたとき、その孫が5歳であっても未成年者控除の適用は受けられません。相続人ではないからです。
控除の適用にあたっては基本的に次の3つを満たす必要がありますので注意しましょう。
- 財産を取得した方が相続人
- 財産を取得した時点で18歳未満
- 財産を取得した時点で日本に住所がある
なお、相続放棄により相続人ではなくなったとしても、未成年者控除の適用においては相続人として扱うことができます。相続放棄をすることで相続財産を受け取ることはできなくなりますが、遺言書で別途遺贈について記載がされているときは相続人としての立場を放棄しても遺産を得ることができます。この場面でも未成年者控除により税額控除は受けられるということです。
また、日本に住所がなくても一定の場合には利用者としての資格を得ることは可能です。例えば、日本国籍を持ち、相続開始の前10年以内に国内に住所があったのであればこの要件は満たすことができます。
さらに、10年以上国外で住み、日本国籍がない場合でも、被相続人について住所・国籍に関する所定の要件を満たすことで未成年者控除の適用を受けられることがあります。
控除額の計算方法
未成年者控除の額は、次の計算式で求められます。
控除額 = 10万円×(18歳-本人の年齢)
つまり、相続人本人が17歳であるときは「10万円×(18歳-17歳)=10万円」が控除額です。同様に計算して、8歳に対しては100万円、0歳に対しては最大の180万円を控除できます。
※「〇ヶ月」の部分は切り捨てる。14歳10ヶ月なら14歳で、0歳3ヶ月なら0歳で計算する。
なお、控除額が各人の納税額を上回るときは、引ききれなかった部分をその本人を扶養する親や配偶者、兄弟姉妹などに適用させることが可能です。
《例:相続人が被相続人の長男(20歳)と長女(10歳)。それぞれの相続税は50万円。長男が長女を扶養している。》
未成年者控除の額 = 10万円×(18歳-10歳)
= 80万円
長女の相続税 = 50万円-50万円
= 0万円(30万円が引ききれなかった)
長男の相続税 = 50万円-30万円
= 20万円
障害者控除について
財産を取得した相続人が障害者である場合は「障害者控除」の適用が受けられます。
障害の程度が重いと控除額は大きくなりますし、年齢にも対応して控除額は変動します。
なお、未成年者控除同様、障害者控除についてもその適用を受けて納税額が0円になるときは申告手続が不要となります。
利用者の要件
障害者控除の利用者要件は次の3点です。
- 財産を取得した方が相続人
- 財産を取得した時点で障害者である
- 財産を取得した時点で日本に住所がある
当然、障害者であることがポイントになってきます。そこで手続の際は障害者手帳のコピーを添付するなどして障害者であることを証明します。
その他に関しては前項で紹介した未成年者控除と共通点は多く、相続人が相続放棄をしたとしても控除の適用は受けることができます。
ただし日本に住所があることは必須となります。さらに、日本に住所があっても相続人本人が「短期滞在の外国人」で、かつ被相続人も一定の外国人である場合などには適用が受けられません。
※短期滞在の外国人:在留資格を持って滞在している外国人であって、過去15年以内に合計で10年以上日本に住所がない方。
控除額の計算方法
障害者控除の額は次の計算式に基づいて求めることができます。
控除額 = 10万円※×(85歳-本人の年齢)
※重度と判定された「特別障害者」の場合は20万円で計算する。
例えば本人の年齢が60歳であれば「10万円×(85歳-60歳)=250万円」が控除可能です。40歳であれば450万円、20歳であれば650万円となります。その方が特別障害者であれば控除額が倍増します。
さらに、未成年者控除同様に引ききれなかった部分があるときは、当該障害者を扶養している方の相続税から差し引くことができます。
贈与税額控除について
相続税は、相続や遺贈で取得した財産に対して課税をするのが基本です。しかし、相続開始前一定期間に行われた贈与については相続税の計算に含めなければならないという「生前贈与加算」のルールが定められています。
そこで被相続人から生前に贈与として金銭やその他財産を受けていた方は、その贈与財産の金額についても調べて、相続財産と同じように相続税の計算に含めなければなりません。
ただ、相続開始前「3年以内※」に行われた贈与財産を加算しないといけないところ、過去の贈与についてはすでに贈与税を納めていることもあります。そうすると贈与税と相続税の二重課税により過大な税負担を負うこととなりますので、すでに納めた分を「贈与税額控除」として差し引くことが認められています。
※法改正により2024年以降については期間が変更される。詳しくは次項で説明。
なお、贈与税額控除の適用を受けることで納めるべき相続税額がなくなる場合であっても、申告の手続は省略することができません。
生前贈与加算の期間は「3年」から「7年」に
執筆時点(2023年)において、生前贈与加算は相続開始前3年以内の贈与が対象となっています。しかし令和5年度税制改正を受け、2024年1月1日からは新たなルールが適用されはじめます。
端的にいうと、生前贈与加算の対象期間が延びます。現在「前3年以内」とされているのが「前7年以内」にまで伸長されるのです。
※前3年前以内の贈与以外(前4年~7年に行われた贈与分)についてはその合計額から100万円を控除する。
新ルール適用開始からしばらくの間は取り扱いが複雑になりますので注意しましょう。期間が延びるとはいえ、適用されるのは「2024年1月1日以後の贈与」です。そのため2026年12月31日までに相続が開始されても、影響は受けません。2027年以降になると期間が延びることの影響が出始めます。
《例:2023年に100万円、2025年に200万円、2027年に300万円の贈与を受け、2029年に相続が開始された。》
生前贈与加算の額 = (前3年以内の贈与以外の贈与財産)+(前3年以内の贈与財産)
= (200万円-100万円)+300万円
= 400万円
※2023年の贈与については新ルールの適用対象外。
相続時精算課税制度に基づく贈与にも注意
贈与税の課税方式として「相続時精算課税」というタイプもあります。
原則は「暦年課税制度」であり、1年間の贈与財産が基礎控除110万円を上回るときに毎年課税するというものです。一方の相続時精算課税制度では、贈与時に特別控除2,500万円を適用し、この額を超えた分についてのみ一律20%の税率を乗じた贈与税が課税されます。
そして同制度利用後の贈与は相続時に精算を行います。
この制度に基づいて3,000万円の贈与をしたとしましょう。
特別控除2,500万円により500万円に対して贈与税の負担が発生します。その後相続が開始されたときは3,000万円を相続財産に含めて計算することになります。
特別控除の適用を受けた範囲についても結局相続時に精算されますのでまるまる節税効果が得られるわけではありません。しかし相続税の基礎控除は規模が大きいため、結果的に節税効果が高まるケースもあります。
なお、特別控除でカバーしきれなかった部分については先に贈与税を納めることになりますが、その分は相続時に「贈与税額控除」として差し引くことができます。
そして贈与税額控除により控除しきれなかった部分については還付が受けられます。
※相続時精算課税制度についても法改正により新たに基礎控除が創設される。暦年課税制度同様に110万円の控除が可能となる。
相次相続控除について
「相次相続控除」という税額控除の仕組みもあります。相次相続控除は、今直面している相続の開始前10年以内に被相続人が相続税の負担をしていた場合に、相続人が一定額を控除できるというものです。
端的に説明すると、「短期間に相続が続いたときに税負担が軽減できる」というものです。
次のすべての要件を満たす方が相次相続控除を受けられます。
- 相続人
※相続放棄をした方、廃除や欠格で相続権を失った方は対象外。 - 今の相続の開始前10年以内に被相続人が財産を得て相続税が課税されている
例えば被相続人Aとその配偶者B、子どものCがいたとします。Aが亡くなったとき(一次相続)はBとCが相続人になり、Aの財産をBとCが相続し、相続税も課税されます。
その3年後Bが亡くなる(二次相続)とCが相続人になり、Bの財産をCが相続し、相続税も課税されます。このときCは相次相続控除を受けることができます。
この例でいうと、短期間に相続が連続して発生することで、Aの財産に2度課税されたのと近い状況が起こります。そこで税負担が過重とならないよう一定額の控除が認められているのです。
控除額は、一次相続で課税された相続税額に対して1年あたり10%を逓減していく形で算出されます。一次相続から1年未満に二次相続が発生すると100%、1年以上2年未満なら90%・・・、9年以上10年未満なら10%と徐々に控除額は小さくなっていきます。
複雑な計算式を用いることになりますので、正確な値を把握するときは税理士への相談がおすすめです。
外国税額控除について
「外国税額控除」は、相続税の計算対象とされている財産に関して、外国でも相続税に相当する税金が課されたときに適用を受けられる税額控除です。
贈与税額控除のように、二重の負担を回避する目的で設けられています。外国ですでに納めた相続税相当の税額を、日本における相続税の額から差し引くことができます。
配偶者の税額軽減について
被相続人の配偶者だけに認められている「配偶者の税額軽減」の仕組みがあります。一般的には「配偶者控除」と呼ばれているものです。
簡単に説明すると、「取得した遺産が1億6,000万円もしくは法定相続分相当額までなら相続税がかからない」という非常に効果の大きなものになっています。
軽減効果と二次相続への配慮
控除できる金額は、次の計算式により求まります。
控除額 = 相続税の総額×(①または②のいずれか少ない方/課税価格の合計額)
- 「課税価格の合計額に配偶者の法定相続分を掛けて算出される金額」または「1億6,000万円」のいずれか大きい金額
- 配偶者の課税価格
この計算式を使うと、結果的に配偶者は1億6,000万円の遺産を非課税で受け取れることになります。それ以上の遺産を得ても法定相続分に沿って取得したのであればやはり非課税です。1億6,000万円未満の金額であれば法定相続分を超えて取得しても非課税です。
このように、配偶者控除を活用すれば大きな遺産があっても非課税で相続することは不可能ではありません。ただこの場合は二次相続に注意が必要です。
その後当該配偶者が亡くなると、配偶者控除なしで大きな遺産を子どもたちが取得することになり、トータルで考えると税負担が増してしまうこともあります。そのため将来のことも考慮して、遺産分割をすることが大事です。
当記事では「税額控除」について言及しましたが、相続税対策となる特例なども他にあります。税理士に相談して、何か使える手段はないか、具体的にどれだけの節税効果が得られるのか、詳細を確認するようにしましょう。