相続において税理士にしかできないこととは? 相続における依頼事項を整理
相続には多種多様な手続が絡み、中には専門知識を持っていなければ適切な対応をするのが難しい手続もあります。そこで相続に際しては、各手続の内容に即した専門家を利用するのが一般的で、税理士も登場することが多いです。
そして「税理士に依頼することができる」事案もあれば、「税理士にしか依頼することができない」事案もあります。この記事ではこの両者につき紹介し、具体的に税理士にどのような事案を任せられるのかを整理していきます。
相続に関する税理士だけに依頼できること
前提として、税理士は税に関するスペシャリストです。相続の問題に関わらず、広く税に関する問題に対処できる専門家です。
例えば所得税・法人税・所得税、そして相続税や贈与税など、あらゆる税の問題を取り扱っています。さらに税の問題との関連性が強い分野に関しても一部対応可能な手続があります。
そして税理士という資格は、単に税のプロであることを示すだけのものではありません。税の手続・問題に関して、独占的に依頼を受けることが法的に認められているのです。
そこで税理士法第2条第1項では「税理士業務」を定義し、当該業務に該当する行為に関して非税理士により行うことを禁じています。具体的には、同条項柱書で税理士業務につき「他人の求めに応じ、租税に関して、次に掲げる事務を行うことを業とする」と規定し、各号で事務の例を挙げています。
なお、ここで言う「業とする」とは、特定の事務を反復継続して行うこと等を指すのであり、有償か否かは絶対的な指標ではありません。つまり、無償だからという理由のみをもって、非税理士が税理士業務をできることにはならないのです。
税金に関する相談
税理士法第2条第1項第3号には、税理士だけができる業務の1つに「税務相談」を掲げています。
税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)
引用:e-Gov法令検索 税理士法第2条第1項第3号抜粋
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000237_20220401_504AC0000000004)
税務署に提出する申告書の作成や各税の計算に関することなど、税に関わる相談は広く「税務相談」に該当します。そのため相続税の申告書作成までは依頼せず、相談をするだけであっても税理士でなくては対応できないということです。
税金の申告代理
税金に関する相談すら非税理士に依頼できませんので、当然、申告の代理も税理士にしか依頼できません。
税理士法同条項第1号および第2号にもそれぞれ「税務代理」「税務書類の作成」を以下のように掲げています。
一 税務代理(税務官公署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てにつき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。)
二 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類で財務省令で定めるものを作成することをいう。)
引用:e-Gov法令検索 税理士法第2条第1項第1号・第2号抜粋
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000237_20220401_504AC0000000004)
第1号で、税務官公署に対する申告および税務調査、その処分に関して税務官公署に対してする主張・陳述などの代行を挙げています。
第2号で、申告書等の作成を挙げています。なお、ここで言う「作成する」には、単なる代書は含まれないと考えられています。申告書を自己の判断に基づいて作成する場合に該当しますので、本人の指示に従い代わりに書面へ記載をしていくだけであれば税理士でなくとも対応可能です。
相続に関して言うと、相続税の申告書の作成、そして申告の代理などは税理士だけに依頼できるということになります。
また、「準確定申告」の依頼も税理士にのみ依頼可能です。
準確定申告とは、相続人自身が問題となる一般的な相続税の申告とは異なり、被相続人自身がすべきであった申告を相続人が代わりに行うことを言います。亡くなった方が1月1日から得た所得については申告ができていない状態となっていますので、その分の手続を代わりにしなければならないのです。
相続人は自らの相続税の申告もしなければなりませんし、準確定申告も併せてすべて自分で対応するのは大変です。申告が遅れてしまうとペナルティを課せられる可能性もあることから、こうしたリスクをなくすため税理士に依頼するのが一般化しています。
節税対策
相続税の申告とは異なり、節税は本人に義務が課せられているわけではありません。節税はしなくても良いのであり、その意味ではわざわざ税理士に依頼をする必要はないとも言えるでしょう。
しかし節税対策をするかどうかで金銭的な負担が大幅に変わることもあります。特に、「遺産総額が大きい」「遺産に不動産が含まれている」「いろんな種類の財産がある」といったケースではプロのサポートを受けて対処することで結果に差が出やすいです。
そして節税対策も税理士業務に該当するため、非税理士に相談・依頼することは法的に認められていません。
税務調査への対応
相続税の申告を無事終えたとしても、その時点で完全に相続問題から解放されたとは言えません。税務調査を受ける可能性があるからです。申告内容が正しいのかどうか、実際に税務署の方がやってきて調査を行うのです。資産の内容や被相続人の収入、家族構成などが事細かくチェックされるのです。
どのような場合に税務調査が入るのか、明確な基準は公開されていませんが、遺産総額が大きな場合やミスが含まれているとの疑いが濃いケースで入りやすいと言われています。
税理士がついているかどうかは税務署側で確認ができますし、税理士なく申告したのであればミスが含まれている可能性が高いと評価される可能性があります。その観点から言えば、税理士に任せて申告をすることで税務調査が入るリスクを下げられるとも考えられます。仮に税務調査が入ったとしても、当日立ち会ってもらうことができますので、大きな問題には発展しにくいです。
そして税務調査への対応は上に挙げた税理士業務の1つであるため、非税理士に依頼することはできません。
その他税理士に依頼できること
税理士にしか依頼できないわけではありませんが、「依頼することができる」という事務もあります。税理士を利用する場面では以下の手続等も併せて任せると効果的・効率的です。
相続財産の調査
相続開始後、まずは遺言書の確認や相続人の調査、そして相続財産の調査を始めることになります。現状を把握しなければ遺産分割もできませんし、相続税の申告もできないからです。
そして特に難しいのが相続財産の調査です。
被相続人がどのような財産を持っていたのか、財産の種別、価額の大きさなどを整理していかなくてはなりません。現金や預貯金であれば価値の評価に迷うこともありませんが、土地や建物、有価証券などは特別な計算式を用いるなどしてその価値を見定めることになり、専門知識がなければ対応が非常に難しいです。
しかし税理士であれば財産調査、各財産の評価も問題なく対処できます。これらの事務は相続税の申告にも直接的に関わるものですし、税理士に任せておけば相続人本人が手間をかける必要はなくなります。
相続税申告のための遺産分割協議書作成
相続税申告に係る遺産分割協議書の作成も税理士に依頼できます。
ただし遺産分割協議全般を税理士に依頼することはできません。あくまで相続税申告の添付書類として作成する場合に限られます。
事業承継対策
被相続人が経営者である場合、相続に関連して事業承継の問題も生じます。
経営者であれば会社の株式を保有していることが想定されますが、このときの株式は株式投資としての意味合いではなく、経営権を保持する意味で保有しています。そこで、この株式が相続人に渡ってしまうと、これまで何ら会社経営に携わってこなかった外部の人物が突然経営に口出しできるようになってしまうのです。これでは安定的な会社経営はできませんし、相続人としても取扱いに困ってしまいます。
そこで後継者に自社株やその他事業用の財産を承継させられるよう、事前対策を打っておくことが大切です。
しかしながら、自社株が予想外に大きな価値を有していることもありますし、相続に際して種々の問題が生じ得ます。後継者の税負担もそのうちの1つです。後継者として自社株を引き継ぐためこれを換金するわけにはいきませんし、自身が持っていた現金等から納税の義務を果たさなくてはなりません。
そこで税理士協力のもと、いかに納税の負担を軽減するかを検討していきます。自社株の評価を下げるためにはどうすべきか、どのように遺産分割すべきか、プロの助けがなくては対処が難しい問題です。
相続に関わる税理士以外の専門家と依頼できる内容
相続に関するプロは、税理士以外にもいます。税理士業務が法定されているように、他の専門家にもそれぞれ専門領域があります。そこで状況に応じて各専門家の使い分け、あるいは併用をしていくことが望ましいです。
弁護士
弁護士は法律のプロです。下記の司法書士や行政書士ができることは弁護士ならすべてカバーできます。
特に弁護士の存在が欠かせない場面は、相続人間あるいはその他利害関係者とのトラブルが生じたときです。揉めている人たちの間に立って、法的問題を解決していくことが認められているのは弁護士だけです。訴訟に発展したとしても本人に代わって訴訟行為ができます。
ただし税理士業務を行うことは弁護士にも認められていません。そこで税に関する相談や依頼をするときには税理士に依頼し、税の問題に加えて親族間で揉めそうだというときには税理士と弁護士の両方に依頼をすると良いでしょう。
司法書士
司法書士は登記の専門家です。
相続財産に不動産が含まれているのであれば、名義変更にあたり登記手続が必要になります。そこで不動産評価に関しては税理士に、遺産分割後の登記については司法書士に依頼して対応していくことになるでしょう。
また、司法書士であれば相続放棄に関する申述の代理などもできます。税理士が相続財産の調査および価額評価をした結果、相続放棄をすべきとの判断に至ったときには司法書士への依頼も検討することになるでしょう。
行政書士
行政書士は行政等に提出する書類作成の専門家です。
相続に関して言うと、各種事実証明書類を作成したり、遺産分割協議書を作成したりすることができます。
そこで大きな問題がなく事務的な作業をプロに任せたいという場面であれば、行政書士に頼んで比較的低コストで済ませるということも検討すると良いでしょう。
他の専門家とも連携できる税理士への依頼がおすすめ
税に関しては弁護士や司法書士、行政書士でも対応できません。相続税の相談、代理申告などは税理士の領域だからです。
しかし税理士だけでも対応できる範囲には限りがあり、その範疇を超える事例も珍しくありません。そこで相続問題全体を通してスムーズに対処していくためには、複数の専門家が連携できる体制が整っていることが大切です。そのため依頼先となる税理士を選定する際には、相続に強い弁護士や司法書士などとの連携が取れているかどうかにも着目することが大切です。